教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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な問題や,習ったことを別の場面で実際に適用できるかを試すようなことは,今のところAIやコンピュータによって自動化するのは困難です。つまり,社会に出て実際に役立つレベルでの個別最適な学びをどうするかは,AIに任せきれない課題であり,教師の腕の見せどころだといえます。その部分においては,学習の全自動化のためではなく,子どもや教師自身を支えるツールとして,コンピュータをいかに活用するかが重要になります。 一方で,これまでの一斉授業スタイルへの慣れもありますし,テスト・入試問題への対応も,現実問題としてあります。テスト・入試問題では,深く理解しているかを確かめる記述式問題よりも,穴埋め問題のように正答が一つに限定される問題のほうが採点精度を上げる意味でも好まれる傾向があります。全てを即座に個別化へと移行するのは不可能であり,実態に応じながら徐々に取り組んでいくことになるでしょう。 完全な一斉指導では,学習目標,学習内容,学習方法は学習者の誰にとっても同じであるものの,そこから得られる成果はばらばらです(図1)。このような図を見ると,学習目標や学習内容などの個別化を考えたくなるところです。しかし,現実的な第一歩を考えると,このばらばらになっている学習状況・成果の把握から始めることがオススメです。 例えば,コンピュータを使って,子ども一人一人に授業のふり返りを書かせてはどうでしょうか。表計算ソフトの共同編集機能を使って書かせると,子どもは他者のふり返りからも学びやすいですし,教師も子どもたちのふり返りを一覧できて,短時間で学習状況を把握できます。ふり返りの一覧を読んでみると,一斉かつ丁寧に指導したはずなのに,子どもの理解がばらばらであることに気づかされるでしょう。これを知るだけでも意味があります。次の授業が仮に一斉指導であっても,理解のばらつきをふまえてよりよく変えようと考える材料になりますし,子どもに個別に声がけもしやすくなります。こうしたことをスタートに,徐々に個別化を図っていきます。 今後もわが国では,学習目標や学習内容を完全に個別化することは難しいでしょう。定められた目標や内容にはなんらかの形で触れていく必要があり,その「共通部分」と「個別部分」が共存する,ハイブリッドな「個別最適な学び」が進むものと考えられます(図2)。現在行われている実践を見ても,授業の一部で共通部分をしっかりと指導し,残まずは学習状況の把握からりの部分で,共通部分のさらなる定着を図ったり発展させたりする個別学習を進めるイメージです。 そうして個別学習を進めていくと,一人では学びきれないことに誰もが気づきます。自然と子どもどうしで助け合ったり,学び合ったりする協働学習が展開されるのです。その際に有効なのが,ワープロソフト,表計算ソフト,プレゼンソフトなどの共同編集機能を活用して学習成果をまとめることです。教師や子どもがお互いの学習状況を把握できる環境で学ぶことで,対面での協働活動,コンピュータの画面上での協働活動が教室内で自在に起こっています。 これらは,GIGAスクール構想における標準的なクラウド機能のみで実現可能であり,社会人が行うICT活用と似ていることも特徴です。特別な学習用ソフトを使わず,実社会とも接続している活用法であるため,卒業後も役立つ力が身につくと考えられます。図2 一人一台端末を活用した中学数学での実践例図1 完全な一斉指導の例AさんBさんCさんDさんEさん学習目標学習内容学習方法学習成果共通部分と個別部分が混在。従来の指導法との接続性が高い。一人では学びきれず,助け合い,学び合いが起こる。教師は,学習状況が把握しやすいので,授業を複線化しやすい。子どもは,他者の学習状況をいつでも把握できるので,協働しやすい。AさんBさんCさんDさんEさん学習目標学習内容学習方法学習成果まずは,学習状況・成果の把握のために,一人一台端末を活用。用紙の回収の手間がないなどのメリットもある。一斉に教えても,成果はまちまちAさんBさんCさんDさんEさん学習目標学習内容学習方法学習成果共通部分と個別部分が混在。従来の指導法との接続性が高い。一人では学びきれず,助け合い,学び合いが起こる。教師は,学習状況が把握しやすいので,授業を複線化しやすい。子どもは,他者の学習状況をいつでも把握できるので,協働しやすい。AさんBさんCさんDさんEさん学習目標学習内容学習方法学習成果一斉に教えても,成果はまちまち27デジタル時代の学び連載

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