教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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金沢学院大学教授 多た田だ 孝たか志し現現代的な教教育課題に対応した学学びをつくる山梨県生まれ博士(学校教育学)東京学芸大学卒業,上越教育大学大学院修了。東京都葛飾区立小学校教頭,在外日本人学校・補修授業校教諭,目白学園中学・高等学校教諭,カナダ西バンクーバー中等学校教諭,目白大学学部長等を歴任。目白大学名誉教授,金沢学院大学教授。元日本学校教育学会会長,元日本国際理解教育学会会長。著書に,『地球時代の言語表現』『対話力を育てる』『共に創る対話力』『授業で育てる対話力』『対話型授業の理論と実践』などがある。提言社会・生命系の存続を危機的状況に追い込んでいます。こうした課題の要因は複雑に絡み合っており,一つの分野の研究や実践だけでは解決できないため,多様な分野からの知見・経験などをもちよる「総合知」が必要となってきました。 このことは,これからの教育において,多様なものを関連付け,組み合わせ,新たな叡智を共創する「総合知」を育むことの重要性を示唆しています。多文化との共生社会の現実化 多様な価値観,行動様式や思し惟い方式をもった人々が共生する社会が現実化しています。文化や価値観の異なる人々と相互理解を深めることは難しいことですが,重要なのは,相互理解が難しい,不可能とも思える人々となんとか歩み寄ることです。さらに積極的には,対立や異見を,むしろ活用できる態度や技能を修得していくことなのです。 このことは,協同の学びにおいて,多様性を活かす場を意図的に設定し,そこから新たな叡えい智ちを生みだす体験の必要性を示しています。高度情報化時代の到来 近未来の社会は,「シンギュラリティ」(技術的特異点:Technological Singularity)の衝撃を意識せざるを得ません。人工知能によるロボットやバイオテクノロジーなどの飛躍的発展により,2045年頃には,人間の能力と社会を根底から覆すシンギュラリティが発生する可能性も予測されています。 情報機器の活用は,確かに新たな学びの方法をつくりだしていきます。大量の情報を収集し,学級全体の意見を瞬時に分析・整理し,また複雑な要素を組み合わせ,さらに言葉にするのが苦手な子にとっての意見表出の機会となります。 一方で,留意すべきは脳の劣化です。最新の脳医学の研究で,世界を震撼させたのは,スウェーデンの精神科医,アンデシュ・ハンセン(Anders  教師ほど,やりがいのある職業はありません。それは自分の個性を生かしつつ,日々小さな感動に囲まれ,理想を追求していけるからです。 しかし,教師という職は,高度な教育実践者としての考え方を深め,実践力を高めていくことが求められる職です。 これまで全国各地で,多くの先生がたと授業づくりに取り組んできました。研修会で,ときには駅のベンチでも,どうしたら一人一人の子どもたちを成長させる授業ができるかを語り合ってきました。 本稿では,理論研究を継続し,実践に取り組んできた中で得てきた現代的な教育課題を解決していくための「教育実践の智」を紹介していきます。 「不易流行」という言葉があります。教育の基本は変わりませんが,時代に対応して変化させていかねばならないことがあります。現代は,人類がたどってきた狩猟社会,農耕社会,工業社会,情報社会に次ぐ,人工知能(artificial intelligence:AI)やロボット,インターネットによる情報の集約化とビッグ・データにより,仮想空間と現実空間を高度に融合させたSociety5.0に入ったとされています。この社会は,また,多様な文化・価値観が混在する社会でもあります。 「近未来社会の担い手を育成する学び」の時代的な背景について,時代の変化と教育との関連を三つの視点から説明します。地球規模課題の顕在化 人口爆発と食糧問題,加速する地球温暖化,極端な貧富の格差などの地球規模課題は,いま,地球はじめに1. 変化する社会4現代的な教育課題とこれからの授業デザインー提言特集

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