教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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Hansen)のスマホ脳に関する研究です。ハンセンは,スマホへの過度の依存が,睡眠障害,うつ病,記憶力や集中力・学力の低下を生み,スマホの便利さに溺れているうちに脳が確実にむしばまれていくと警鐘を鳴らしています。 このことは,情報機器の活用とともに,感性や感受性を練磨するさまざまな人や事象と出会い,五感をつかって気づき,発見し,感じる体験を重視する必要性を示しています。 先行きが不透明ながらも,ダイナミックに変化する新たな時代・社会の現実化を背景に,そうした社会・「New Normal」(新常態)に対応した人間の育成が教育に期待されてきているのです。世界の冷ややかで厳しい現実への対応,文化・価値観の相違や利害の対立などの「アポリア」(哲学的難題)への挑戦,人工知能に対し優位性を発揮できる人間の育成が強く求められているのです。 近未来を予見するとき,自分なりの考えをもちつつ,多様な他者と共存・協調し,問題・課題を解決し,主体的に行動できる人間の形成が教育の使命となっています。これまでの教師主導で体系化された知識の伝達による学習では対応できず,教育には新たなパラダイムの創造が求められているのです。 ここからは,新たな時代に対応した人間形成を希求した「学び」について考えていきましょう。新たな時代に対応した人間形成 まず,みなさんは新たな時代に育むべき資質・能力・技能とはどのようなものだと考えますか? 私は,中東,中南米,北米に合計6年余にわたり滞在し,またユネスコの世界大会,学会の国際学術交流,米国・オセアニア,東南アジア等への教育調査団に参加してきました。こうした機会に多様な文化をもつ人々と交流してきた体験から,新たな時代に育むべき資質・能力・技能を以下と捉えています。・自分の頭で考え,心で決めて主体的に行動する。・多様性を生かし,異見や対立を活用し,新たな解や叡智を共創する。・発想力を高め,知的冒険心をもち,殻を破り,意外性を楽しむ。・挫折・失敗を生かす自己回復力を高める。2. 学びの考察・さまざまな知見・体験などを総合でき,その過程から次の課題に取り組む類推力や汎用力を培う。・一定の結論にとどまらず,納得するまで探究する継続力をもつ。・先行きが不透明な時代への臨機応変な対応力,自己変革への勇気をもつ。・感性・感受性,想像力・イメージ力を練磨する。・基本技能としての対話・思考・情報活用,人間関係形成のスキルを修得する。 これらの資質・能力・技能を育むためには,「主体的・対話的で深い学び」が効果的だと考えます。「主体的・対話的で深い学び」をつくるために 教師であるみなさんは,子どもたちに以下を周知することが大切だと考えます。 第一に,学習と学びとは異なることです。学習とは,単位時間において,目的とする知識・技能などの習得を到達点として行われる活動です。一方で,学びとは,多様な見方・考え方や,挫折からの自己回復力,発想の豊かさといった,人生における生き方や知性を育むためのより広い概念です。 第二に,思考と探究の違いです。思考は一人でもできますが,探究は多様な他者との協同による活動によってこそ,なされていきます。新たな時代に必要なのは「学びと探究」なのです。 それでは,「主体的・対話的で深い学び」はどうしたら展開できるのでしょうか。おおむね次に挙げる段階により展開されます。❶ 多様な気づき・発見により,問いを抱かせる段階。❷ 問いについての,さまざまな知識や情報を集めさせる段階。❸ 情報を,相違点・共通点などにより分類・整理し,探究するテーマを絞り込ませる段階。 (分類・整理から落ちた,意外性のある情報も大切にする。)❹ 調査活動の結果を分析し,新たな視点や発想から議論し,考えを深めさせる段階。❺ 調査の結果を集約し,さらに結論を再び吟味して深め,最終的な見解を明確にして報告・提言事項をまとめさせる段階。❻ 学習の成果を総合して,効果的なプレゼンをさせる段階。❼ 学びの経緯を思い起こし,習得したことや今後の課題について振り返らせる段階。5現代的な教育課題とこれからの授業デザインー提言特集

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