教育情報誌 学びのチカラ e-na!! vol.1 (中学校版)
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 各段階において対話が活用され,また,振り返りの時空が設けられることにより,納得のいく解に迫るための自己選択と自己決定が繰り返されます。深い学びを起こすために,特に重視すべきこと 対話や協同の学びを設定しても,「なかなか子どもたちが深い思考をしていかない」との声を若い先生たちから聞きます。いったい,どのような考え方や手立てが必要なのでしょうか。教育に携わってきた中で,大切だと思うことを列挙しておきます。❶子どもたちの潜在能力を信じる  子どもたちは,実はさまざまな潜在能力をもっています。それが出せないのは,自信がなかったり,どう発言したらよいのか方法が分からなかったりするからなのです。教師の信頼とちょっとした声かけなどの支援が,全ての子どもを学びの主役にしていきます。❷雰囲気づくりこそ大切  「多様な他者を受け入れ,共に創っていく」という受容的・共創的な雰囲気づくりは,学びを深める基盤です。なんでも言えて聴き合える雰囲気づくりを基調にしつつ,高い目標に向かい真摯に取り組む,少し緊張感のある雰囲気づくりも工夫しましょう。❸子どもたちの学びに火をつける  学びへの関心・意欲を高めるには,導入時の工夫が大切です。驚いた! こんなことがあったのか! と関心をもたせ,ぜひ探究していきたいという意欲を高める手立てが大切です。❹多様な意見・見解をぶつけ合わせる 深い学びは,多様な意見や見解のぶつかり合いから生まれてきます。そこで,意図的にぶつかり合いの場面を設定してみましょう。新たな良い意見や知恵が生まれてきた体験を繰り返すと,子どもたちはぶつかり合いをむしろ楽しむようになっていきます。❺混沌・混乱の時間を恐れない  授業中の対話場面で,混沌・混乱状態となることがあります。この時空こそ,創造の母体なのです。「待つこと,見守ること」そこから必ず,子どもたち自身による新たな叡智が生まれていきます。❻相互支援を奨励する  「相談タイム」を活用する先生の授業を参観しました。この時間,子どもたちは,自由に移動し,友達と相談し,疑問を解いたり,あらたな課題に気づいたりしていました。ぜひ相互支援の時間を工夫してみてください。❼振り返りを活用し,自己選択・決定場面をつくる  授業の過程に,振り返りの時間をとることは効果的です。その僅かな沈黙の間に,さまざまな友達の見方・考え方を参考に自己選択・自己決定をし,現時点の納得のいく解をもつことができるからです。❽新たな発想の意見,無駄な意見を活用し,結論をさらに深める  子どもたちは,一定の結論を得るとそこにとどまる傾向があります。結論をさらに深めていくためには,新たな視点からの発想や,意外な見方の活用が効果的です。無駄・役に立たないと思ってきた意見の活用が知の世界を広げる体験もさせてあげたいものです。結論は一つでなくてもよいのです。さまざまな見方・考え方や,結論があるということを体験させてあげることで,深い学びへとつながります。 本稿の最後に,深い学び・協同の学びの基本技能である対話の活用法についてまとめていきます。 これまで全国各地の実践研究の仲間たちと,対話の活用法について,議論し,授業を創り,真摯に検討を繰り返してきました。また,数多くの先達の対話論を分析・考察してきました。そうした実践・理論研究の成果から抽出できた,対話の概念,共通する性質や特徴,授業で対話を活用するための必要な条件を記してみます。対話とは 対話とは,「自己および多様な他者・事象と交流し,差異を生かし,新たな知恵や価値,解決策などを共に創り,その過程で良好で創造的な関係を構築していくための言語と非言語による,継続・発展・深化する表現活動」です。 対話力を高めるその第一歩は,聴く力の育成にあります。対話は「聴き合い」なのです。聴き手がしっかり聴いてくれると,話し手は自分の思いを次々と表出していくことができます。相互の聴き合いが対話となるのです。その「聴く」には,正確に,質問しつつ,批判しながら,自分の考えを再びまとめる,など多様な働きがあります。(聴く・話す・対話する力を向上させる具体的な手立てについては拙著『対話力を育てる』(教育出版)を参照ください。)  なお,上記を根底として,グローバル時代に対応3. 対話の活用法6現代的な教育課題とこれからの授業デザインー提言特集

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