全国各地の学校の実践研究に参加してきました。各校では,教師たちが真摯に,自由に語り合い,ねらいを分析し,学習材を選択・吟味し,学習のプロセスをさまざまに工夫していました。その中でも目を見張るのは,先生がたの教育実践力の向上です。若い先生がたが先輩の手法を学び取り(模倣し),自分のものとし,いつのまにか優れた実践者へと成長していました。研究協議会において探究蓄積型の熟議を続けてきたことが,学校全体の学びを質の高いものにしていきました。 学びを,現代的課題に対応したものとするために,さらに一段上のものへと高めていく。このためには,教師は新たな時代の「教育の開拓者」としての強い思いと志をもつことが求められます。時代の変化に応じた教育の流行を示す,表面的な理論,形式のみを重んじた用語にあたふたと惑わされず,どっしりと構え,教育の基盤の変革に対応することこそ大切だと考えます。 新たな時代の教育実践を開拓するためには,教師は,知的世界の冒険者・先駆者として教育学にとどまらず,脳医学,動物行動学や芸術論さらに最新の科学論を学び,視野を広げ,そこから得た知見を学びに活用する姿勢をもつことが必要とされます。また,諸学の研究成果を吸収し,さらに自身が多様な人々と交流し,魂を揺るがす事象と出会い,挫折,成功,感動などさまざまな体験をし,その知的創造的な活動で得たものを具体的な実践に結び付けていくことが期待されます。 現代的な教育課題に対応した教育実践学は,教師たちの新たな学びの創造への果敢な取り組みによって構築されていくに違いありません。困難な道ですが,教育は未来を拓く創造的な営みなのです。その中で,特に主体的に実践する者としての誇りをもち,共に歩んでいきましょう。参考文献多田孝志『対話型授業の理論と実践』(教育出版 2021)二次元コードから本の紹介を見ることができます。おわりにした対話の捉え方は,令和3年度版『伝え合う言葉 中学国語3』(教育出版)に掲載の『「対話力」とは何か』に詳記してあるので,ご高覧ください。対話の形態 対話には,対象となるもの(事象・学習材)との対話や,自己内対話,ペアでの対話,近くの人とのちょこちょこ対話,チームでの対話,聴きたい人との対話(自由に動く),全体での対話,チームから一人が他のチームの様子を取材する特派員型対話など,さまざまな形態があります。 授業は,瞬間・瞬間の芸術ですね。どれ一つとして同じ授業は存在しないため,学びの進行に応じた,柔軟で臨機応変の対応が必要とされます。このため,対話を形式的に位置づけるのではなく,授業の流れの中で,場面に応じてさまざまな対話の形態を適切に活用することこそが非常に大切なのです。対話を深めるための留意点 さまざまな意見や体験がぶつかり合い,また縦横につながることにより,思考が次々と深まっていく対話の要点を整理しておきます。❶環境設定:一人一人が生かされ,話しやすいと感じる環境設定。❷課題設定:答えが一つではなく,多様な考えが出やすい,少し難しい課題設定。❸考えをもたせる:時間の担保,付箋や図,絵など多様な表現方法を活用し,自分の考えをもたせる。❹批判的思考力を高める:ここでの批判は,誹謗中傷ではなく,相手の意見を的確に聴き取り,議論を深めるための手立てとしての批判である。質問し,不明な点を指摘し,自己の見解を伝えることを奨励する。❺自由に思いを巡らす時間の担保:思考を深める沈黙,混沌,混乱の時間を大切にする。❻既習事項の活用:既習事項を思い出させ,活用することが次の高みに向かわせる。❼深い対話の手がかりの付与:比べる,立場や発想を変える,つなぐ,組み合わせるなどの,議論を深める手立てを掲示したり,その具体例を説明したりしておく。7現代的な教育課題とこれからの授業デザインー提言特集
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