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教育研究所
書評:寺崎千秋の気になる1冊 771
「平均思考は捨てなさい ~出る杭を伸ばす個の科学~」 (トッド・ローズ著 小坂恵理訳 早川書房 2017.5.25発行 本体:2200円)
「平均」と言えば「平均点」や「偏差値」を思い浮かべ,それより上下,高低で一喜一憂したことは多くの人が経験している。馴染みのある言葉だが,それが人々にどれほどの重荷を背負わせたかに思いを馳せることはなかったのではないか。
著者は現在,ハーバード教育大学院の研究者だが,その育ちの過程ではまさに学校や職場において平均から外れ劣っていると見なされ苦労してきた人物。苦しむ過程で平均を重視するシステムに自分を合わせるのではなく,システムを自分に合わせることが重要なことに気づき,そこから変わっていく。そして,学問としての「個性学」の研究とその実践の重視を訴える。
本書では,「平均」の誕生とそれがいかに人々の個性を奪うことに活用されたか,今日の社会においても公教育や企業において席巻している状況の問題とともに,その逆の個性重視の考え方により,個々や組織,社会が変わっていく姿を紹介する。
著者が示す「個性の原理」は,「バラツキの原理」「コンテクストの原理」「迂回路の原理」の三つであり,これらは最終的にはすべて同時に作用する。企業や組織がこの個性の原理を重視すると,行き詰まっている経営にイノベーションを引き起こすことを幾つかの例で示す。いじめや不登校等に代表される現在の公教育・社会の行き詰まり打開,学校教育を一斉画一型から個性重視に変えていく際の視点となるのではないか。