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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その1037
岸田雪子著「いじめでは死なせない」 (新潮社 本体:1400円)
TV記者やニュースキャスターを長く続けてきた著者は,いじめもテーマの一つにして取材してきたという。
その中で子どもの自殺が目立つのは,「夏休みが終わる直前」と「2学期の始まった直後」だと体験的に感じているし,各種のデータがそれを裏付けているそうだ。
本書は,「いじめが原因で子供を死なせたくない」という著者の切なる思いから出版したことが,ひしひしと伝わってくる。それだけに「目の前の無限の未来を持つ子供たち」を守ってあげるのは,大人(教師や家族をはじめすべての大人)であると強く思った。特に,学校の教師や専門スタッフに,危機意識と愛情をもって,「いじめの指導と対応」に意を用いていただきたい。
内容は,いじめから逃れ自殺を回避し生き伸びた本人(被害者),その保護者や友達,対応にかかわった教師,そして加害者およびその保護者などに対して,多角的。多面的な視点(立場)に取材し,証言を得て,いじめと自殺などについて検証し,考察し,提言しているものである。
著者は,いみじくも東京都教育委員会の「SOSの出し方に関する教育を推進するための指導資料」で,学校に求めているように,子供の発信している「SOS(友人関係,体のあざ,衣服の汚れや破れ,感情の起伏,学用品や教科書やノートの汚れ,金使いの乱れ,親への甘えや忌避など)」に,大人が気付くことが大事だと指摘している。そして,言うまでもなく,いじめの事実や兆し,SOSの小さなサインをとらえ,その子の苦しい心を思いやり,明るく元気に前向きになるように支えてあげるのが大人の責任ある行動である。本書を読み終えて強く思った。