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書評:小島宏の気になる1冊その1053

小川仁志著「哲学の最新キーワードを読む「私」と社会をつなぐ知」(講談社現代新書 本体:840円)


 まことに衝撃的な1冊である。「理性的存在の「私」はかつて意のままに社会をコントロールできた。しかしそのような牧歌的な時代は終わった。感情,モノ,テクノロジー,共同性という非理性的な力が,「私」を排除して,ダイレクトに社会に影響を及ぼそうとしているのだ。この状態を放置しておけば(略)......。新たに生起する様々な非理性と,従来の理性との関係を定義しなおすことで,理性そのものをアップグレードすること―それこそが<多項知>の時代に求められる新たな公共哲学だ」(「はじめに」より要約抜粋)というのである。

 また,<多項知(Ⅰ「感情の知(ポピュリズム,再魔術化,アート・パワー)」,Ⅱ「モノの知(思弁的実在論,000(注:トリプルオー),新しい唯物論)」,Ⅲ「テクノロジ-の知(ポスト・シンギュラリティ,フィルターバブル,超監視社会)」,Ⅳ「共同性の知(ニュー・プラグマティズム,シェアリング・エコノミー,効果的な利他主義)」)>が「私」と社会をつなぐということである。

 ゆっくり,じっくり,行きつ戻りつしながら読み進めると,ある段階ですっきり晴れ渡るように分かってくる。AI搭載のロボットに支配されない「人間」になるために,時間をかけて味わってほしい。

 第Ⅰ部「感情の知」-「1:政治は感情に支配されるのか?―ポピュリズム」「2:地球規模の宗教対立が再燃する―再魔術化」「3:アートこそが世界を救う―アート・パワー」,第Ⅱ部「モノの知」-「4:すべては偶然に生じている―思弁的実在論」「5:独立するモノたち―トリプルオー000」「6:人間中心主義の行方―新しい唯物論」,第Ⅲ部「テクノロジーの知」-「7:AIの暴走は止められるか―ポスト・シンギュラリティ」「8:インターネットが世界を牛耳る―フィルターバブル」「9:プライバシーなき時代を生きる―超監視社会」,第Ⅳ部「共同性の知」-「10:積極的な妥協が対立を越える―ニュー・プログマティズム」「11:ポスト資本主義社会は共有がもたらす―シェアリング・エコノミー」「12:自分と他者を同時に幸福にする―効果的な利他主義」,終わりに「未来のための新しい公共哲学」,「主な引用・参考文献」。