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書評:小島宏の気になる1冊その1064

黒柳徹子著「窓ぎわのトットちゃん」 (講談社文庫 本体:648円)


 本書が初めて出版されたのは,昭和56年(文庫本になったのは昭和59年)で,指導主事1年目だったので鮮明に覚えている。著者の人気と内容と,いわさきちひろの夢を感じさせてくれる素晴らしい挿絵とが重なって,たちまちベストセラーになった。

 本書を初めて読んだときは,本当かな?と思った。公立の学校で,少々扱いが難しいからといって,退学にするということがあるだろうか? 「あとがき」で,本人はこのすべてが事実だと言い切っているが,いくら聡明な子供とはいえ,こんなに幼い時のことをビデオで録画したかのように鮮明に覚えているものだろうか? 夏休みが始まる前日に,校長先生がプリントを配って,あした「野宿」をするから用意してくるようにというような,行き当たりばったりのことをするものだろうか? 一日の学習問題が板書され,作文の好きな子は作文から,物理の好きな子はアルコールランプに火をつけてフラスコをブクブク,自習形式が多く,分からない時は先生に聞きに行くか,先生が自分の席に来た時,納得のいくまで教えてもらうということだ。一見素晴らしいのだが,小学校で成立したのか? イチャモンぽい感想をたくさん持った。

 今再び読み返してみると,そんなことはどうでもよいことだ。一つ一つの物語の底に流れるファンタジーを味わえばよいのである。と,素直に読めるようになっている自分に気づいた。本書を読んでいる孫に,「本当にこんな学校があるのかな~~」とかまをかけると,「ないと思うよ,でもあったら楽しいじゃん」ということだった。ちなみに,孫は,窓際のトットちゃん並みのところがたくさんあるのに,幸い(不幸?)なことに退学になっていません。

 窓ぎわのトットちゃん,今日から学校に行く,電車の教室,通信簿,夏休みが始まった,肝試し,一番わるい洋服,運動会,小林一茶,はんごうすいさん,本当はいい子だよ,ボロ学校,ロッキーがいなくなった等々,楽しい話(作者によると実話)が61も詰まっている。