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教育研究所

書評:気になる1冊1137

東京工業大学リベラルアーツセンター編「池上彰の教養のススメ」 (日経BP社 本体:1500円)


 開かれた大学が話題になっていた昔,某大学の某委員会の委員をしていた時,「本学では,教養課程の教養をどのように考えているのですか?」と質問したところ,「リベラルアーツ(liberal arts)ということですよ!」と即座位に返ってきた。「教養の中身としてどのようなことを学生に学ばせるつもりか?」と問うたのであるが,カタカナ語に置き換えただけであった。広辞苑によると「学問・芸術などにより人間性・知性を磨き高める基礎となる文化的内容・知識・振る舞い方など(要約引用)」と,いうことである。

 しかし,現在は,専門教育の基礎の「教養教育」という考えはなくなり,「人間を解放して自由にする知識や生きる力」という意味合いに進化し,「リベラルアーツ」を看板にする大学が増えている。

 本書は,「仕事や人生を生き抜くための最強の武器になる」ものとして「教養」をとらえ,それを身に付けるための12のポイントを説いたものである。現在の日本では,自動車や建築物などの不具合・誤魔化し,情報や統計などの捏造・改竄・隠蔽が発覚し国内外の信頼低下を招いている状況に,警鐘を鳴らし,その要因は「教養」のなさにあることと捉え,その対策を示している。ビジネスマンを対象にしているが,教師も社会人であるから一読に値する。

 オリエンテーション「教養とは何か」,1限目「教養について知っておくべき12の意味(1:与えられた前提を疑う能力,2:新しいルールを創造できる能力,3:あらゆる変化に対応するための能力で,生物学,4:すぐに役に立たないから一生役に立つ,5:専門外の分野を学ぶことから始まる,6:四の五の言わずに本を沢山読む,7:人間を学ぶには歴史を学べ,8:目先の合理主義は非合理な結果を招く,10:教養のない街には人は来ない,11:理系の諸君,教養を学ぶのはテクノロジーを担う君たちの責務,12:本当の教養は無駄なものである)」,2限目「日本に教養を取り戻す:日本が弱くなったのは教養が足りないからです(桑子敏雄×上田紀行×池上彰)」,3限目「社会的合意形成:哲学の力で公共事業の問題も解決できるのです(桑子敏雄×池上彰)」,4限目「無宗教国ニッポンの宗教:ニッポンの会社の神様と仏様とオウム事件と靖國問題と(上田紀行×池上彰)」,5限目「ナマコと人間の生物学:人間は「ひと」であるまえに生きものです(本川達雄×池上達夫)」と,読み手次第で,教養を高めるバイブルにも,反面教師にもなる。(H&M)