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教育研究所

書評:気になる1冊1152

耳塚寛明・中西裕子・上田智子編著「平等の教育社会学・現代教育の診断と処方箋」(勁草書房 本体:2800円)


 保護者の経済的状況の影響,児童虐待,養育放棄・放任,家庭教育への無関心などなど,日本の子供の貧困は,国際的にも注目されるほど好ましくない状況にある。

 本書は,教育格差や学力格差,学力の危機などについて追究し続けている御茶の水女子大学耳塚寛明教授の下で学んだ10人の研究者による「平等の教育社会学」をキーワードにした「現代教育の診断と処方箋」を提案したものである。

 調査データに基づいた分析と考察,処方箋(どうあるべきか,どうすべきか,何ができるか)を示したものである。使用しているデータは,学生や青年を調査対象にしたものが多く,高校や大学の教育に関わる人を対象にしているものと思われる。が,小学校,中学校,高等学校,専門学校,大学を一貫したキャリア教育と考えたとき,小・中学校の教員にとっても「先を見通したキャリア教育」を実践するために役立つ内容と思われる。

  したがって,教師をはじめ,学力,進学・進路,子供の将来,生き方,職業などに関わる全て人のための気になる1冊である。

 また,新学習指導要領の算数・数学科では,統計教育(新しく「Dデータの活用」という領域を設定)が重視されるようになったが,データのとり方,考察の仕方についての教養としても学ぶべきことが多く読み取れる。

第Ⅰ部「キャリアはひらかれているか?(90年代以降の大都市のにおける若者の職業意識の変化,若者のトランジションと社会変容,都市と地方の若者の自立感と依存,進路としての無業者)」。
第Ⅱ部「格差に挑む(親の学歴期待と子の学歴希望・教育達成,我が子に対する学歴期待と自身の学生時代の学びや成長)」。
第Ⅲ部「学歴社会を超えて(不本意入学からの脱出,国境を越えた職業達成に対する学歴の効果)」。
第Ⅳ部「子供の教育の最前線(選択としての発達障害と医療格差,保育者の専門性とは何か)」。
第Ⅴ部「平等の教育社会学(学力格差の社会学)」。(H&M)