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教育研究所

書評:気になる1冊1153

「東京人Tokyo jin」 (都市出版株式会社 定価:930円)


 東京の魅力を多面的・多角的にレポートする月刊誌で,毎月楽しみである。今月号の特集は自由な気風が息づく,もう一つの東京―多摩,武蔵野「反骨の多摩,武蔵野」である。

 昭和の時代までは,23区と多摩は,微妙に区別化されていて,(ちょっと)悔しい思いをしたものである。同期で教員になっても,M区のAさんはすごい!といわれ,T市のBさんは話題にもならなかった。。指導主事でも,T区に発令されたOさんは高く評価され,H市のKさんは目を向けられることもなかった。

 当時(昭和46年頃),全国に先駆けて,問題解決学習で,「つよしたま」(強し多摩と密かに思っていた)は,つかむ(課題・問題を理解する),よそうする(解決の見通しを持つ),しらべる(解決の仕方を調べる,考える),たしかめる(解決の過程や結果を確認する,学び合う),まとめる(学習のまとめをする)というもので,多摩の教師は23区の教員を超えるべく頑張ったものである。

 赤坂憲雄×吉増剛造「対談:周辺から自由の芯が現れる」は,多摩で育ち多摩に暮らす民俗学者と詩人の両氏が,武蔵野,福生の昔と今を歴史的,文化的に語っている。

 また,批評家矢野利裕×漫画家久住昌之×地理人今和泉隆行「孤独のグルメと空想地図,原風景としての郊外」では,3氏が,地図を囲んで現実と想像を交えながら「いい所」「なんでもない所」「こうあってほしい」などを好き勝手(自由奔放)に話していて,いつの間にか引き込まれていた。

 多摩地区は,戦前(昭和20年,1945年以前)は,軍都であり,調布飛行場,武蔵野の中島飛行機製作所&横川電機製作所,東村山・小平の陸軍少年通信兵学校&陸軍兵器補給所&国民勤労訓練所,泰川・国立の陸軍獣医資材本部&立川飛行場,福生・昭島の多摩飛行場&昭和飛行機工業と,先の大戦を振り返ることができる。

 八木敏郎「多摩の発展を願い,多摩の文化をはぐくむ」,張大石「昭和記念公園を歩く,地中に眠る昭和の履歴を発掘!(註:植物園,遊園地的に見ていた昭和記念公園の秘密に迫ることができる)」,黒井千次「多摩の縦と横」,滝口悠生「中心のない風景」,原武史「滝山団地で育まれた反骨の精神」,港千尋「玉川上水,米軍基地,五日市街道...ネガフィルムからよみがえる風景」,赤坂憲雄「平成狸合戦ぽんぽこからの直言,タヌキたちが還ってくる日」などなど,読み応えがある。

 また,「女中サークル誌「あさつゆ」に見る戦後民主主義「希交会発足より65年」は,女性の人権回復を超えて,人間の尊厳について多くを学ぶことができた。(H&M)