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教育研究所

書評:気になる1冊1164

浅田次郎著「パリわずらい江戸わずらい」(小学館 本体:1400円)


 本書は,「まえがき」もなければ「あとがき」もなく,エッセイを単純に編集したものである。あまりにも名の知れた著者の書いた本ということで,乾いたわが心に潤いを与えてくれるのではないかと期待して,読んでみた。

 まず,目次を開いて,面白そうだと直感した前半の「旅の仕度(海外旅行で必要なのは,パスポート&エアチケット&クレジットカード,略してPACパック...)」「減糖減塩(砂糖と塩を抑えている日本の食生活に比べ,オーストラリアの料理のしょっぱさとデザートの甘さ...)」「おまわりさんは,どこ?(日本は安全だというが,バングラディシュから来た作家は,京都の町に警官の姿が見えず警備していないようなので納得できず不安を感じて...)」を読んでみた。

 結構面白かったので,後半の「六十九次てくてく歩き(競馬好きの著者が,暫く馬券を買わなかったら死亡説が流れた,そのさなか連載小説のネタ探しに中山道を歩き...)」「パリわずらい江戸わずらい(パリに滞在するとたいてい何日か寝込んだ,昔江戸にも「江戸わずらい」という風土病があった...)」「華麗なるカレー(体重を増やさないためにカレーを食べている,そして,日本のカレーの歴史を面白おかしく紹介...)」「チップの考察(チップの習慣のない著者が,海外旅行でチップを払うことは煩わしい,でも昔は日本にもチップの習慣が...)」「イタリアン・クライシス(時代物を書くことが多い著者がイタリアを旅行した,スパゲティ,生ハム,ピザなどなどで,減量に気を使っていたのに今までにない体重増量に...)」も読んでしまった。

 そこで,残りのエッセイも読んで,結局40編を全て読み終わり,十分楽しめた。ただし,著者は潤沢な財布をお持ちのようで,時間は持て余すくらい沢山あるのに財布の中は空気だけという自分が同じような海外旅行をしても,きっと庶民的なスケジュールで行動し,庶民と交流することが中心になるかもしれない。(H&M)