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教育研究所
書評:気になる1冊1178<教養のススメ>
東京工業大学リベラルアーツセンター編「池上彰の教養のススメ」 (日経BP社 本体:1500円)
ある大学の外部評価委員をしていた時のこと,1・2年のカリキュラムに関連して「この大学では,教養をどのように考えているのですか?」と素朴な質問をしたら,そんな程度の低い質問をするなと言わんばかりに「リベラルアーツですよ!!」と,ぶすっとした表情で答えたのを思い出した。
本書でも,リベラルアーツは,日本語では「教養」と訳されるとあって,その意味は述べていない。しかし,「教養を身に付ける」とは,「歴史や文学や哲学や心理学や芸術や生物学や物理学やさまざまな分野の知の体系を学ぶことで,世界を知り,自然を知り,人を知ることである」と,また「自分の専門分野と全く関係のない分野を学ぶ,それが供用を手にする第一歩である」と,情況的な説明をしている。もやもやしていたことがほんの少しだけ分かったような気がした。
本書の英語のタイトルは,「The Value of a Liberal Arts Education」で,小中学生の教育に関わる私たちのために書かれたものと言える。ただし,クリティカル・リーディング(熟読・精読)をして,小学校6年や中学校1年にもわかる程に易しく置き換えられるくらいに理解してのことであるが...。
内容は,次のように,大学の講義調に構成されていて興味深く読み進められるように演出されている。
1限目池上彰「オリエンテーション・教養とはなにか:教養について知っておくべき12の意味」。2限目桑子敏男×上田紀行×池上彰「教養入門・日本に教養を取り戻す:ニッポンが弱くなったのは教養が足りないからです(第1部日本の大学は無教養か,第2部教養における理系文系と男女の問題,第3部大喜利!こうすれば教養はあなたの手に入る)」。3限目桑子敏男「哲学・社会的合意形成:哲学の力で公共事業の問題も解決できるのです(第1部川は誰のものだと思いますか,第2部ヤマタノオロチを鎮めた対話集会,第3部徹底的に建前で議論せよしからば合意に至らん,第4部困ったら神社を探せ!合意につながるカギがある,第5部原発問題で合意形成はできるか)」。4限目上田紀行「文化人類学宗教学・無宗教ニッポンの宗教:ニッポンの会社の神さま仏さまとオウム事件と靖國問題と(第1部東大至上主義をぶちこわしてくれたのはインドでした,第2部日本のお寺は風景に過ぎない,オウム信者の宗教観,第3部神さま仏さまが会社にいる国,第4部靖國神社は宗教ではない)」。5限目本川達雄「生物学・ナマコと人間の生物学:人間はひとであるまえに生きものです(第1部生物学は理系と文系をつなぐ学問です,第2部優等生が陥る科学のワナ,第3部科学には価値がない生きものには意味がある,第4部生物学を知っているとヒトの経済が読めるようになる,第5部ニュートン教だけでは未来はない,第6部生物学こそは究極の教養です)」。修学旅行上田紀行×池上彰「教養教育・米国トップの大学の教養教育MIT・ウェルズリーカレッジ・ハーバード大:アメリカの一流大学の4年間は教養まみれでした(MITその1・MITの学部では最先端なんか教えない,その2・MITは理系バカが役に立たないと知っている,ウェルズリー大・めちゃお得!教養専門校アメリカ最高の名門女子大に学べ,ハーバード大・ハーバードの学生が金儲けよりしたいこと,東工大・東工大生がボキャ貧・コミュ障から脱するためには)」と,教養について,広く学べる。(H&M)
(再掲)