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教育研究所
書評:気になる1冊1186<アリになった数学者>
森田真生・文&脇坂克二・絵「アリになった数学者」 (福音館書店 本体1300円)
某大学の数学科を卒業した。でも,(内緒の話だが)中学校の数学科のことが少しだけわかる程度である。だから,安野光雅(作家の黒井千次と同じく東京の小金井市在住で,日本画家&絵本作家であり,「はじめてであうすうがくの絵本」3巻の作者でもある)が,帯に「この本は,数学の核心にしっかりと触れたとてもうつくしい"絵本"なのです」と推薦文を寄せていたので,「どんなものか...」と,ちょっと覗いてみようかと手にした。
これがいけなかった。一応絵をふんだんに取り入れてはいるものの「こんな小難しい」本が,果たして絵本と言えるのだろうかといちゃもんを付けたくなるような構成に,だまされ,じっくり読むことになってしまった。
数学者(作者の森田真生)がアリになって,本物のアリと出会い,人間の数学(数)についてあれこれ教えようとするが,一向に通じず,分かってもらえない。
ところが,(擬人化した)アリに教えられたアリの数え方を知ると,人間とは異なる数の認識に驚き,納得し,数の世界を広げていくのである。作者は,東大理学部数学科出身の数学者であるが,在野で独自に数学をを研究し,誰にでもその研究成果を伝えようと著作活動や「数学演奏会(やさしく面白い数学を語るパフォーマンス)」を行っている。
本書は,実際には,挿絵はほのぼのとした絵本らしき雰囲気で素晴らしいが,文章は,絵本らしからぬ理屈っぽいもので,小学校上学年以上を対象にしたものと考えた方がよさそうである。内容は,やさしくかつ簡潔であるが,大人でも数学の「す」くらいは感ずることのできるスグレモノ(内容の濃いもの)である。 (H&M)