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書評:気になる1冊1225<楽老抄Ⅱあめんぼに夕立>

田辺聖子著「楽老抄Ⅱあめんぼに夕立」(集英社 本体:1400円)


 久々に著者(故人)の作品を読んだ。1作品2~3ページのエッセイ集である。超高齢者の著者が,冒頭の作品で,「われわれ世代は,ケータイ(註:ガラケーのこと)でメールなどやらない」というくだりに妙に共感して,結局80余りのエッセイを読んでしまった。

 今の若者は,英語はペラペラなのに,日本語の法被,団扇,海苔,黒子が読めないと嘆く(註:はっぴ,せんす,のり,ほくろ)。また,「陽炎,土筆,羊歯,百舌鳥」も読めないという(註:かげろう,つくし,しだ,もず)。眉唾物(註:まゆつば:信用できない,騙される恐れがある)であるが,デパートの和服売り場で「足袋をください」と言ったら,店員が「ありません」と,「ここにあるじゃないか」と指さすと,「それは,あしぶくろです」と言ったそうだ。また,TVのアナウンサーが「全国の社寺(しゃじ)」を「全国のやしろてら」,「興味津々(しんしん)」を「興味つつ」,「眼力(がんりき)」を「めぢから」と,誤読していたという。

 これは,難しい漢字や珍しい字句にルビを振ることをやめてしまったからだと,著者は分析している。それと,新聞を読んで活字から情報や状況を知ることが大事だと,日本人を諭している。著者は新聞を五紙も取って読み込んでいたということである。母心をくすぐられるとつい情にほだされてしまうが,新聞をよく読んでいれば,オレオレ詐欺(註:母さん助けて詐欺,振り込め詐欺,親心利用詐欺,ニセ電話詐欺,なりすまし詐欺,特殊詐欺など)に騙されなくなるはずだとも。

 内容は,「輝かしき言葉」(ことわざ文化,怪っ体な若者(けったいなわかもの),日本語論など20話),「生きずれる」(老いぬれば,朝顔,おでん,燗酒など20話),「乙女のときめき」(オレオレ詐欺,ママひとりの店,若者対熟年など20話),「大阪もん」(四文字熟語―思案投首,失望落胆,先行真暗など),漢字とひらがな,格言など19話),「楽しみきわまりなし―あとがきにかえて」と,楽しく読める。(H&M)