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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その716
月刊誌「教育研究2017年7月号」 (不昧堂出版 本体:787円)
新学習指導要領では,各教科等に特有の見方や考え方を育むことを求めている。趣旨徹底を今年度中に,十分理解するようにしたい。
本誌はこのことを正面から捉え,特集「育みたい見方や考え方」を組み,横山みどり「特集について」,聖徳大学教授小野瀬雅人「各教科で育てたい『見方・考え方』の捉え方と指導」,佐賀大学教授岡陽子「見方・考え方を軸として資質・能力を豊かに育む」,東京都多摩教育事務所学校教育指導専門委員富田広「グローバルな視点で子どもたちに育みたい見方・考え方」,大野桂「数学の見方・考え方を身につけさせ,働かせる授業」,笠雷太「図画工作科の特質に応じた造形的な見方・考え方―すべての子どもの造形的な視点で世界に触れ,自分らしく価値や意味をつくりだすために」と,参考になる内容である。
中教審答申(平成28年12月)の示された各教科等の見方・考え方及び「小学校(中学校)学習指導要領」の各教科等の目標,6月21日に公表された文科省「小学校(中学校)学習指導要領解説○○編」などと合わせて読むことをお勧めしたい。
この他,鷲見辰美「プログラミング教材を使った環境教育(理科編)」,研究発表:山田誠「道徳科・道徳的行為に関する体験的な学習」,荒井和枝「英語・Hello Goodbyeで聞き直しの歌活動」,北川智久「図工・きめる,きめ直すを生む新しい版表現」,笠原壮史「音楽・子ども一人一人の意思で学級全体の歌唱表現を変容させていく授業―子どもの多様な気付きを生かすための授業デザイナー」,夏坂哲志「算数・数の見方を広げる」,由井薗健「生活・確かなよりどころをもって,きめる」子どもを育む生活科の授業づくり―第1学年の「ありがとうがいっぱい!~かぞくとしごと」,青山由紀「国語・説明文学習における<推測する思考>の系統を探る―事例の選択意図を推測する比較研究」など,優れた実践・研究に出会うことができる。
今回の提言のキーワードは,「自己肯定感を高める」と「自ら未来を切り拓く子供」である。前者は,教師にこのような教育を進めることを求めており,後者はその教育が実現した時の子どもの姿を示したものである。決して,新しいことではないが,社会の状況や教育の状況,学校の状況が,「自己肯定感を高める」「自ら未来を切り拓く子供」を無視しては進められないぎりぎりのところに至っているということであろう。
新学習指導要領の趣旨徹底→移行措置→全面実施と,小・中学校の教育が質的に高まることを求めているが,その際,この提言を参考にすることがあってもよい。ただし,この提言に基づく具体的な方策については,具体的に示されるであろうから,性急に飛びついて混乱しないようにしたい。
内容を見てみると,1「学校,家庭,地域の役割分担と教育力の向上について(学校・家庭・地域の役割分担,家庭・地域の教育力の向上,学校の教育力の向上のための教師の働き方改革)」,2「子供たちの自己肯定感を育む(日本の子どもの実態,新学習指導要領に基づく授業改善,自己の長所と短所を見つめる,幼児教育の充実,家庭教育への支援,多世代・異年齢交流など)」,3「これまでの提言の確実な実行に向けて(提言に基づき,既に法令改正等がなされた事項,提言の実行に向け,特に注視する必要のある重点事項)」,
となっている。機会を見つけて,全体に目を通しておきたい。