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書評:小島宏の気になる1冊その719
沢木耕太郎著『あなたがいる場所』 (新潮文庫 本体:490円)
本書は,ノンフィクション作家の著者が,史実や事実,記録に基づくことなく初めて書いた架空の出来事である短編小説(フィクション)をあつめたものである。
どれも,どこにでもあるありきたりの日常性の中の出来事で,「あなたがいる場所」で起こり得ることで,もしかしたらこれが「あなたのいる場所」であっても少しも不思議でないという筋書きである。
「銃を撃つ」は,どこにでもいる普通の高校生が,不仲な両親と,試験の成績の出来具合,その女子高生が...。「迷子」は,少年ユウスケが不幸せな女の子と出会い...。「虹の髪」は,中年の男性がバスの中で見かけた女性に...。「天使のおやつ」は,保育園で原因不明の事故で娘を失った夫婦が...。「白い鳩」は,カラスに襲われている白い鳩を見かけた少年が...。「自分の神様」,。「クリスマス・プレゼント」は,妻に先立たれた父親が,息子にプレゼントを贈った先は...。など9編を集めたものである。(著者の仕事がら,どこかにモデルがあるのかもしれない)
書名からして「自分の居場所(生き方)」を考えさせられる1冊であった。登場する子供も,大人も,全ての登場人物が,苦しい「居場所」の中にいて,ハッピィエンドの筋書でないところが「読後の爽やかさ」を感じさせなかったが,深く考えるきっかけにはなった。