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書評:小島宏の気になる1冊その721
ヤン=ヴェルナー・ミュラー著・板橋拓己訳『ポピュリズムとは何か』(岩波書店 本体:1800円)
著者は,本書で,ポピュリズムとはどのようなことか,ポピュリズムをどのように識別し,そしてポピュリズムにどう対処するかを様々に提案している。
ポピュリズム(populism)とは,デジタル大辞泉による(要約引用)と,「19世紀末にアメリカで起こった農民中心の社会改革運動で,人民党を組織し民主化や景気対策を要求した」,「人民階級に所得再配分,政治的権利拡大を唱える主義」,「大衆迎合主義」(注:この捉え方には,民主主義や市民主義などに誤解を与え問題ありとの異議がある)と,解説されているので紹介する。(詳細は,分かりやすい「デジタル大辞泉」をご覧ください)
ポピュリズム(populism)を信奉するポピュリスト(Populist)は,反エリート主義者で,反多元主義者で,道徳的である者としている。つまり,ポピュリスト(ポピュリスト政党)は,自分と人民(高潔で道徳的に純粋な者)とを同一視,その他の者は非道徳的で人民ではないとして排斥する傾向があるようだ。そして,著者は,ポピュリズムを,アイデンティティ・ポリティクスの一形態(全てとは言わないが)として捉え排他主義で,これが多元主義(pluralism)と承認を必要とし自由で平等なしかも多様性を有して共生する市民によって行われる民主主義にとって,「対立を食い物にし」,分裂を強め,政治的に立場を異にする者たちを人民の敵として扱い,完全に排除しよう」とするから,脅威になると警告している。
内容は,序章「誰もがポピュリスト?」,第1章「ポピュリズムが語ること(ポピュリズムを理解すること,そもそもポピュリストとは何を代表しようと主張しているのか? など5節)」,第2章「ポピュリストがすること,あるいは政権を握ったポピュリズム(ポピュリストによる三つの統治テクニックとその道徳的正当化,政権を握ったポピュリズムにおける「非リベラルな民主主義」と同義何か?など4節)」,第3章「ポピュリズムへの対処法(ポピュリズムと破られた民主主義の約束,ポピュリズムに対する自由民主主義的な批判,代表の危機? アメリカの状況,ポピュリズムとテクノクラシーの狭間のヨーロッパ)」,結論「ポピュリズムについての7つのテーマ」で,構成されている。本書は,まず「日本語版への序文」と訳者の「訳者あとがき」に目を通してから読むと分かりやすい。
激動する世界各国,日本,都道府県,区市町村の政治を考える一つの視点として,本書を活用していきたい。