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書評:小島宏の気になる1冊その727
海老名香葉子著・いわさきちひろ絵『いつも笑顔で―あの戦争と母の言葉』 (新日本出版社 本体:1600円)
東京都は,戦争の惨禍を再び繰り返さないことを誓い,平成2年に「東京都平和条例」を制定し,3月10日を「東京都平和の日」と定めました。東京大空襲で犠牲になられた10万もの方々(10万人の方々には家族がおり,もっとたくさんの方々,特に疎開していた子供たちの悲しみは大変なものだった...)を追悼するとともに,平和の意義を確認し,平和意識の高揚を図るため,以来毎年,記念行事を実施しています。
著者が,この「東京都平和の日」の制定に当たって委員の一人(実は,著者は,学童疎開をしていて,大空襲で家族を失いました)として尽力されたことを,当時亀井指導部長の近くでウロウロして仕事をしていたので記憶しています。また,上野公園いこいの広場に「時忘れじの塔」を平成17年に建立するに当たっても中心的にかかわっておられました。寛永寺の浦井正明住職もそのよき理解者であったそうですが,地域学習で児童たちを引率し住職から有難い教えを頂いたこともあり,懐かしさ一杯です。
その後,私は,先代の林家三平師匠が「下町の学習院」と高座で宣伝していたN小学校に勤務することになり,赴任の挨拶に伺ったとき著者にお会いでき,あのにこにこ顔で「主人の母校,N小学校をお願いします。孫たちもお世話になります」と丁重に励まされたことを記憶しています。また,林家正蔵師匠(当時,林家こぶ平)が真打になられたとき記念の扇子を頂き,今も大事にしています。
内容は,短編の随想といわさきちひろの素敵な挿し絵で,とても味わいのあるものです。
「兄妹四人の末娘として幸せな日常」,「学童疎開がきまって」,「母の涙」,「いつも笑顔でいてね」,「父の気遣い」,「母の匂い」,「香貫山から見た九日から十日夜の東京の空」,「突然目の前に現れた兄・喜三郎」,「涙が炎のように熱かった」,「内緒で出かけた実家跡」,「聞こえた父の声」,「うちの子におなり,金馬師匠の温かさ」,「母の大きな愛―いつも笑顔でね」と,涙あり,ホッコリありの「自叙伝」です。
個人的には,けたたましく登場して嵐のように笑いを振りまいてさっと引き上げる林家ペー・パー子のファンだったので,ペーさんが筆者に,結構世話をかけていたことを本書の中で知り,一層人間味を感じてしまいました。
著者の壮絶な人生,豊かな人間性,子供や弟子や孫との優しい生活模様,そして何よりも平和を希求する著者の思いが伝わってきて,心が洗われる思いで読み進めました。戦争の終わりの頃をかすかに記憶している一人として,涙があふれる部分がたくさんありました。昔一応乙女,今確実に太目の老妻も,「久しぶりに感激したわ」と...。
平和を願う著者の思いを我が思いとして...と,深く考えさせられた1冊でした。