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書評:小島宏の気になる1冊その730

青柳光昌・小林庸平・花岡隼人著『徹底調査・子供の貧困が日本を滅ぼす~社会的損失40兆円の衝撃~日本財団子供の貧困対策チーム』(文春新書 本体:780円)

 これまで「日本の子供の貧困率は国際的に見てひどい状況である」「日本の子供の貧困は6人に一人」「日本の子供の貧困率は16.7%」というようなことは,新聞・TVなどの報道で知り,「困っている家庭や子供はいるんだな,大変だな...」と,同情に近いものであった。

 でも,本書を読んで,子供の貧困の裏には「かわいそうでは済まされない」重要な事柄ががある(隠れている)ことに気づかされ,認識の甘さに反省させられた。

 まず「はじめに」に目を通すと,子供の貧困が,その子の人生に大きな影響を及ぼすだけにとどまらず,これが子供の貧困の連鎖を引き起こすこと,大きな経済的な損失を招き国民・国全体に負担を及ぼすことなどを捉えることができる。その上で,第1章「子供の貧困大国・日本(貧困は連鎖する,子供の貧困問題はジブンゴトなど5節)」,第2章「子供の貧困がもたらす社会的損失(子供の貧困の社会的損失推計の基本的な考え方,教育に関する二つの仮説,社会的損失1~5など17節)」,第3章「当事者が語る貧困の現場(児童養護施設管理者が語る貧困の現場,ケース1~5など6節)」,第4章「貧困から抜け出すために(貧困の連鎖の正体とは,自立する力の要素・お金・学力・非認知能力など7節)」,第5章「貧困対策で子供はどう変わるのか(子供の貧困対策には効果があるのか? 幼児教育は生涯にわたって大きなインパクトをもたらす,日本への示唆と課題など16節)」,第6章「子供の貧困問題の解決にむけて(政府における子供の貧困対策,地方自治体における子供の貧困対策など14節)」,「おわりに(国に,都道府県,区市町村に求めるとともに,「ヒトゴト」として他人に任せることなく,「ジブンゴト」として,個人として仲間として取り組みたい)」と,多くのことを学び取ることができる。

 なお,6月27日公表の厚生労働省の最新のデータでは,日本の子供の貧困は依然として厳しい状況にあるが,16.67%(平成24年)から14.28(平成27年)と僅かに改善傾向が見られる。その要因や方策を冷静に分析して,一層の改善を目指したい。