ホーム > 教育研究所 > 気になる1冊 > 書評:小島宏の気になる1冊その737

教育研究所

書評:小島宏の気になる1冊その737

瀬戸内寂聴著「生きてこそ」 (新潮新書 本体:740円)

 まだ,著者には遠く及ばない自分(知恵でなく年齢で)であるが,本書の帯「95歳。幸福になるための智慧六十話」に惹かれ,読んでみた。

 昨年,東日本の山歩きに行った際,目的地がよく分からず地図を囲んで仲間とあれこれ相談していたところ,元気いっぱいの老人が通りかかり「暇だから案内しやろう」と,親切にしていただいた。これだけで終わらなかった。「これからどこへ行くの?」「バスで,○○駅に行き,それから東京へ帰ります」「それなら,自動車で来ているから駅まで送ってやるよ」「それじゃあ,あつかましすぎる」「帰り道だから...」と,送ってもらうことになった。帰りの電車の中で,東北の人は,素朴で,優しいとみんなで感激し,感謝した。

 本書の中にも,これに似た話が出てくる。会場に集まったものの震災で沈んで硬い表情をしている人々を前にして,著者は「私は話は下手だけれど,アンマをするのが得意なの」と言って,老婦人の肩をもみながら「何か心配なことがあったらみんなで話をしましょう」と投げかけ,集まった人たちを前向きにしていった。

 また,子どもたちに話をしたとき,質問を受け,男の子が「家には,動けない家族がいる。どうしたら喜んでもらえるだろうか」と質問すると,その優しさに感激して走りより握手をした...という話もある。

 本書は,幸福になるためと言いつつ「自分に素直に向き合い誠実に生きて行けばよい」と教えてくれる1冊であった。が,まだ若い小生には,ここまで悟ることは無理で,あれこれの喜怒哀楽を感じつつ波乱万丈(?)に生きていきたい。

 第1章「智慧と幸福と自由と(智慧とは判断力のこと,家族の愛は何よりの良薬,再び被災地を訪ねてなど5話)」,第2章「老いの日々を爽快に生きる(90歳からのパソコン,春へんろの笑顔など12話)」,第3章「詩は平等に訪れる(地獄を生きる,命は大いなる授かりものなど11話)」,第4章「嘆かわしいのは教育の荒廃(国語教育の危機,知識よりも倫理を,「一番」よりもやさしさをなど14話)」,第5章「嫌な時代の空気にあらがう(すべての悪は愛で清められる,天に挑むより足もとを固めよなど10話)」,第6章「読書せざるは一生の損(読書離れは亡国の兆し,紙の本の滅びを前になど7話)」と,生きるヒント,幸せのヒントが多く得られる。学校関係者には,第4章と第6章が耳に痛かった。