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書評:小島宏の気になる1冊その740

水野薫編・ADS教育実践研究会著「実践に学ぶ特別支援教育―ADS児を中心とした情緒障害教育の成果と課題,そしてこれからの姿」 (本の種出版 本体:3500円)

 現在の情緒障害教育の進め方の遅滞に危機感を抱いた著者たちが,実践家として50年間を振り返り,例えば学力テストなどの数値など性急な成果を求めがちな現状を見つめ直し,「子供たちの将来の姿を見通して,今必要なことを,適時・適切な方法で指導することが重要だ」として,本書を著した。「情緒障害児のためになっているか?」を「評価基準」や「判断基準」にして,未来志向で見つめ直すきっかけとしたい1冊である。

 内容は,ASDとは自閉スペクトラム症で,Austin Spectrum Dssordor(Disability)の略で,社会でのコミュニケーションのむずかしさ,独特のこだわり(独特の感覚)を持った児童・大人のことである。特に,「社会性&コミュニケーション&創造力の質の違い」の3つの違いがあるということである。

 適時・適切な教育が行われたことによって,現在,社会人として自分なりの生き方,職業,人生が送れるようになっている例も少なくない。教育行政の担当者,指導主事,学校の管理職&ミドルリーダー&教職員・専門スタッフにお勧めしたい。

 内容構成は,第1部「小学校情緒障害教育の歩み」は「1:黎明期―1965~1975年」「2:積極的指導の広がり―1976~1985年」「3:発達障害概念の拡大―1986~2006年」「4:特別支援教育へ―2007年~」「5:歩みの成果と課題―今後に向けて」と過去・現在を見つめ未来を展望している。第2部「今後への期待―引き継ぎたい教育の姿」では,その1:対象児の実態把握と支援計画「1:入級・入室相談―モデル①実態把握票」「2:教師が把握する子供の実態」「3:教育計画―モデル②通級指導学級のねらいと指導内容」「4:指導形態の意義・目的を意識する」,その2:指導の実態「1:言語コミュニケーション,言語概念の指導実践例①②③」「2:ソーシャル・コミュニケーション実践例④」「3:感覚・運動の指導―実践例⑤」「4:認知の指導―実践例⑥」「5:読み書き障害や読み書きのつまずきへの対応―⑦⑧⑨」「6:個別場面でも小集団でもできる感覚・運動の指導―実践例⑩⑪」。他に,参考「文献リスト」と,充実した内容が満載である。