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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その744
田中博之著「アクティブ・ラーニング「深い学び」実践の手引き」 (教育開発研究所 本体:2200円)
アクティブ・ラーニングは,30年前にアメリカの大学で講義調の授業で受け身になっている学生を主体的にするために改善・開発されたというのが,大学の先生方の一般的な見解のようである。おそらく事実で,これ自体は否定しない。
ところが,私が調べたところでは,日本ではその萌芽は1940年頃の刊行物で,はっきりとは1945~1950年頃の文部省の文献からALや「主体的対話的で深い学び」という言い方はしていないが,この発想そのものである授業づくりを認めることができる。(「研究紀要第95号」2015年7月pp13~16(アクティブ・ラーニングの史的考察),「教育展望2015年9月号」pp38~42(日本に置けるアクティブ・ラーニングの史的考察),いずれも一般財団法人教育調査研究所)
ところで,日本の小・中学校では,「主体的・対話的で深い学び」の授業を実践してきたとはいうものの不十分であったことは否めない。その中でも「深い学び」については弱点になっていた。本書の「深い学びの実践の手引き」は,そのあたりに焦点を当てた優れもので,著者の深い研究と学校現場を取材した事実に基づく「理論と実践」を結びつけた時宜を得たものである。悩んでいる学校・教師に多くの手掛かりを与えてくれるであろう。
多分,内容を概観するだけで,読書意欲が高まるであろう。そこで目次だけ紹介する。
Chapter1「主体的・対話的で深い学びって何だろう?」,Chapter2「深い学びを生み出す学習理論(深い学びを成立させる課題解決のプロセス,深い学びを生み出す授業改善の15の技法)」,Chapter3「深い学びを生み出す授業づくりとグループワークの進め方(授業改善のポイント,ユニバーサルデザイン,角になる活動のつくりかた,グループワークの進め方,ねらいを明確にしたグループ対話の指導法1~10,学びに向かう力を生み出す3つの指向性,深い学びの基盤になる言語能力の育成)」,Chapter4「アクティブ・ラーニングが深い学びにならない原因と解決策(Q1~10&A1~10)」,Chapter5「アクティブ・ラーニングを実現させるカリキュラム・マネジメントの進め方(カリキュラム・マネジメントの手法1~8)」,Chapter6「アクティブ・ラーニング「深い学び」実践事例(小学校7事例,中学校9事例)」と,充実している。
ただし,実践事例については,読者の体験的知見と経験則を働かせて,クリティカル・リーディングをしつつ,クリティカ・ルシンキングで十分吟味して,自分流にする活用を考えたい。