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書評:小島宏の気になる1冊その747

北村良子著「論理的思考力を鍛える33の思考実験」 (彩図社 本体:1300円)

 算数科では,従来(昭和53年文部省「小学校指導書算数編」)から問題発見・解決学習において,自力解決の段階で「その結果や方法に対して,おおよその見通しを立てて取り掛かることが大切である」と言っている。これについて,次(平成元年5月)の同書の作成に当っては,清水静海教科調査官(現帝京大学教授)の指導で,文言こそ出ていないが,同様のことを「思考実験」と称して議論していたことを思い出す。

 横道にそれるが,思考実験と言えば,老妻とイタリア旅行していた際,ピサの斜塔でガリレオの思考実験(小さな軽い物と大きな重い物を,ピサの斜塔の最上階から同時に落としたら,どちらが早く地上に到達するか?)に出合い,論理的思考力であることを実感した。主体的・対話的で深い学び(アクティブ・ラーニング)も,文科省の大杉教育課程企画室長が「外から見えやすい場合と,心や脳内での場合がある」と解説しているが,後者が思考実験に限りなく近いように思われる。

 そんなこともあって本書のタイトルに惹かれて読破した。著者は,多くのパズル問題を解決し,それに勝る数のパズル問題を作成している現役バリバリのパズル作家である。それだけに,「なるほど!」と同感することが多く,子供に論理的思考力を育成するための手掛かりが得られるように思う。

 内容は次の構成になっていて,著者の思考実験のタイプを追体験できる。まずは,「思考実験」を味わっていただきたい。

 第1章「倫理観を揺さぶる思考実験(倫理的判断をする場合の思考実験8例)」,第2章「矛盾が絡みつくパラドックス(そうであるような,でもそれではおかしいというようなことに関する思考実験6例)」,第3章「数字と現実の不一致を味わう思考実験(志位知的はそうだが,現実とは一致しないというような場合の思考実験12例)」,第4章「不条理な世の中を生き抜くための思考実験(そんな馬鹿な等言うような場合に行う思考実験7例)」と,どちらかと言えば,人生の岐路でどう考え,判断したらよいかと迷うような場合にも活用できそうである。