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書評:小島宏の気になる1冊その748

辻信太郎著「みんなのたあ坊菜根譚・今も昔も大切な100のことば」 (株式会社サンリオ 本体:920円)

 菜根譚は,中国明代末期(16世紀後半)に,洪応明が,混乱した時代を生き抜く法(処世術)として著した処世術と修養の随筆書である。前篇222編は交友関係(今のコミュニケーション),後編135編は自然と閑居の楽しみ方を著している。儒教,仏教,道教の影響を受けていて,日本には江戸時代に伝来したそうである。昭和時代によく読まれ,吉川英治,田中角栄,五島慶太,川上哲治などが,座右の書としたことで知られている。

 著者は中国四川省成都市(昔の蜀の都)で,1979年当地を旅行した時,同行者の一人が菜根譚のことと洪応明のことを,案内の人に尋ねたが,あまり人気がないのか「そうね...」と言う程度のそっけない情報しか得られなかったことを思い出した。

 本書は,前篇を中心に「人はいかにして生きるべきか」を子ども向けに編集したものである。今の子供たちは,友達関係のつくり方や付き合い方がぎこちなく,なかなか好ましい関係をつくれな子が多いと言われている。

 本書を読んでみると,子供に是非教えてあげたくなる。そして,大人にも忘れられがちな大事なことを教えてくれる。

 まず,歌留多のように「何かをしてもらったらありがとうをいおう」を示し,その意味や意義を「感謝の気持ちを伝えるのは大切なこと。相手の人も自分の気持ちが伝わったんだと,とてもうれしくなるはず」と簡潔に説明している。(実は,アメリカの全国優秀教師に選ばれた先生は,小さい時,祖母から「何かをして貰ったらはっきりした声でアリガトウを言いましょう」と,言われて育ったそうです。)

 電車の中で席を譲っても何も言わない高齢者,物を落としたので「落ちましたよ!」と拾ってやっても,さっと奪い取るようにして去る大人,周りには好ましくないモデルが氾濫している。子供も,大人も,本書を挟んで話し合ったらいかがでしょうか。

 「ぶーぶーいっていないで行動しよう」「きもちはことばにしなくちゃつたわらない」「つまらいケンカはしない」「いやなしごとはさっさとかたづけよう」「あいてのはなしもきいてあげよう」「えがおであいさつをしよう」「ムリにカッコつけない」「どうせやるならたのしくたのしく」「せきにんをひとにおしつけない」「人とのやくそくはまもる」等々,100のことばをお楽しみください。