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書評:小島宏の気になる1冊その749

上野誠著「万葉集から古代を読み解く」 (ちくま新書 本体:800円)

 万葉集とは,現存する日本最古の20巻からなる歌集(長歌,短歌,旋頭歌,仏足石歌,連歌)である。大伴家持と言われているものの編者,8世紀末頃に完成したと言うが成立過程も不詳である。額田王,大伴家持,柿本人麻呂,山部赤人,大伴旅人,山上憶良,高橋虫麻呂,大伴坂上郎女,をはじめ東歌や防人歌など,各階層の人々の4516首もの歌が収められている。

 著者は本書で,万葉集を歴史の中の古典,優れた歌集として,「歌とは何か?」「歌を書くということは,どういうことなのか?」「歌集を造ることの意義は何か?」「万葉集とはどのような歌集なのか?」を知識として伝えるのではなく,「古代社会にあって歌とは何か?」「古代社会において万葉集とは何であったのか?」を考えるヒント,提案をしたいという。

 前半では,第1章「歌友次の出逢い(消えゆく言葉を未来に遺す,歌を残すためになど4節)」,第2章「歌を未来に伝える意志(心と心をつなぐ歌,女歌が元気な万葉集など10節)」,第3章「歌の作り手と歌い手(歌集誕生の条件,有名歌手が人を集める力になるなど8節)」,第4章「木簡に書かれた歌(歌が書かれた木簡,天平期の歌木簡,万葉研究と考古学など17節)」,第5章「日本語を漢字で書く工夫(日本は日本語の島である,古代の文章,日本語はどこから来たのかなど10節)」と,歌が書き留められ,それを歌集とにしていく様子が説かれている。

 後半では,第6章「日本型知識の誕生(山上憶良の思考,漢文と和文の組み合わせ,日本文化を自覚した歌びとなど17節)」,第7章「日本型知識人と神々(「神代」と「いにしえ」と「うつせみ」,多神教の論理など7節)」,第8章「消えゆく物語をどう残すか(万葉集の竹取翁,老人を山に捨てる話,万葉オペラここにありなど19節)」,第9章「日記が芸術になる日(日記文学の誕生,万葉集はどうやってできたのか,歌日記の文学性・芸術性など19節)」と,万葉集をどう見るか,著者の新しい見方が熱く語られている。

 分かっているつもりだった「万葉集」を,古代と現代の時間軸を少しずらして,再読してみたいと思い,少しずつかじり出した。