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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その766
羽生善治・NHKスペシャル取材班著「人工知能の核心」 (NHK出版 本体:780円)
チェスも,囲碁も,将棋も,人間(プロ)とAI(人工知能)の対戦では,圧倒的(完璧)にAIが強い。もう,これらの世界ではAIに人間は勝てない。
暫くすると,人間の仕事の大部分はAIに取られてしまうだろうとも言われている。知識・技能を教え込む教師ならAIで大丈夫だとも言われ,「教育とは何か?」「教師の役割は?」と,巷で話題を呼んでいる。大げさに言えば,AIを前にして,「人間とは何か?」「人間はAIに勝てないのか?」「人間とAIは共存できないのか?(AIを人間の幸せのために役立てることはできないのか?)」と,笑点の林家木久扇師匠(演技)並みの頭で悩んでいる。
ちょっと横道にそれると,10年くらい前頃,パソコンで暇つぶしに囲碁をやっていた。その頃のソフトでは私でも勝てた。時々,形勢が不利になる。そんな時,私の指した妙手は「出鱈目の一手」だった。パソコン(ソフト)は混乱したのか脈絡がなくなり,挽回して勝つことができた。多分,ソフトを作った人の限界か,過去のデータの収集不足だったのだろう。ところで,さすがの羽生善治は,いみじくもAIは過去の人間の対局データの全てを「記録」ではなく「記憶」していて,その中の最善の一手を打っているに違いないというのである。それは,自分の10年前の棋譜を分析すると,「どうしてこのようないい加減な手を打ったのか」と反省するというのである。ということは,AIと対戦するということは,過去の喜志の全てと対戦していて,「それに勝つことができるか?」という問題だというのです(読後に,思い返して要約したので,原文通りではない)。本書を読んで,羽生さんが,科学者のような論理的な思考と,人間味ある美意識を持ち,かつプロとしての直観力を備えていて,さらに表現力のあることに驚き,「単なる将棋のプロ」を超えていることに感動した。
もっと,人間は純粋に「自分の生きる目的」「人間の創造性」「人間の生き甲斐」「夢を追う」等に人生をかけていきたいものである。AIは,この辺りのことについては??である。
我が家の孫は,「人間は人間同士でオリンピックのように競争すればいいのさ」,「人間と自動車がマラソンをしたって意味ないよ」,「人間は,AIの凄い所を使っていけばいいんじゃないの」と,暢気(?)なことを言っている。
第1章「人工知能が人間に追いついた―引き算の思考―(人工知能vsベテラン警察官,人間の強みは汎用性,人工知能で人間は考えなくなる?など25節)」,第2章「人間に会って,人工知能にないもの―美意識―(対局観の極意とは,計算力から経験値へ,記録と記憶の違いなど22節)」,第3章「人に寄り添う人工知能―感情,倫理,創造性―(ハンカチをたたむことは難しい,人工知能に時間の概念がない,ロボットをどう教育するのかなど21節)」,第4章「何でもできる人工知能は作れるか―汎用性と言語―(人工知能は言語を理解できるのか,人工知能を搭載した家電など15節)」,第5章「人工知能とどうつき合えばいいのか(人工知能を信じすぎてはいけない,人工知能と教育,人工知能をどう受け入れるか,羽生さんが教えてくれたことなど20節)」,最後に羽生さんの「人工知能が飛躍的に向上していく。ならば,人間にも同様の飛躍が求められる」で締め括ろう。