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書評:小島宏の気になる1冊その769

山中伸弥・聞き手縁慎也「山中伸弥先生に,人生とⅰPSについて聞いてみた」 (講談社+α新書 本体:800円)

 iPS細胞発見の人類的功績のあるノーベル賞受賞者の山中伸弥先生だから,輝かしき研究生活であったのだろうと勝手に思い込んでいた。しかし,本書を読むと,波乱万丈のしかし研究にはひたむきの人生模様が伝わって来て,科学的な功績以上にその人間的魅力の虜になってしまった。

 本書は,第一部「iPS細胞ができるまでとiPS細胞にできること(医師を志す,ジャマナカ,研究の虜へ,はじめて発見した遺伝子,細胞の設計図,信じてもらえない! 完璧なマウスiPS細胞,ヒトiPS細胞開発競争,iPS細胞ストックとはなど37章のエッセイ)」,第2部「インタビュー(飛ぶためにしゃがむ,紙一重でできたiPS細胞,iPS細胞とES細胞はそっくりすぎる,iPS細胞の安全性,研究者だけでは研究できないなど12のインタビュー記事)」と30枚の想いでの写真と9枚の図表で構成されている。科学者の文章としては極めて易しいホッコリする内容で楽しめる。

 一日も早く,iPS細胞が実用化されて,難病で苦しんでいる人,障害で困っている人の治療や改善,回復に活用されることを期待したい。よろしくお願いします。(なお,京都大学iPS細胞研究所では,研究の加速化のために「iPS細胞研究基金」を創設している。関心のある方は「iPS基金」で検索し,必要な情報を得てください)

 山中伸弥先生は,若い頃「ジャマナカ」と言われながら指導教授に厳しく鍛えられたそうである。そして,幾度もの困難を経験し克服してきたそうで「人間万事塞翁が馬」と表現している。私は,「小さな組織のいなくていい(役立たず)管理職」として,「人間万事塞翁が丙午」の著者(元東京都知事)の下(遥かに遠くの片隅)で仕事をしたことがあるので,比較にはならないが,ミクロンの共通性を感じてしまった。