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教育研究所
書評:寺崎千秋の気になる1冊 770
「ネガティブ・ケイパビリティ 答えの出ない事態に耐える力」(帚木蓬生著 朝日新聞出版 2017.4発行 本体:1300円)
「ネガティブ・ケイパビリティ」とは書名にあるように「答えの出ない事態に耐える力」であり,「論理を離れた,どのようにも決められない,宙ぶらりんの状態を回避せず,耐え抜く能力」を言う。
著者は「ネガティブ・ケイパビリティ」が教育に欠かせない能力であるという。決して新しい言葉ではないことやこの能力の重要性について,各章で順次わからせてくれる。詩人キーツとシェクスピア,精神科医ビオン,わかりたがる脳,医療,身の上相談,伝統治療師,紫式部等々と「ネガティブ・ケイパビリティ」の重要性を説く各主題は興味深く考えさせられる。
今日の教育では,「世の中には,そう簡単には解決できない問題が満ちているという事実が伝達されていない」「人が生きていく上では,解決できる問題よりもできない問題の方が何倍も多い」「無限の可能性を秘めているはずの教育がちっぽけなものになっていきます」と。これは今日の詰め込み教育への批判である。問題の提示とそれへの解答,すなわち問題解決のための指導ではあるが,時間をかけている暇はない,「早く」が求められる深まりのない教育。著者は本書の中でこうした教育に警鐘を鳴らす。
今日の教育で言えば,生活科や総合はこの能力を育成する恰好の時間ではないか。自分なりに工夫し努力して思いや願いを実現する,既習経験を活用して探究する学習をこうしたネガティブ・ケイパビリティの視点から見直すことも必要であろう。