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書評:小島宏の気になる1冊その850

佐伯一麦著「散歩歳時記」 (日本経済新聞社 本体:1900円)


 本書は,山形新聞夕刊「峠のたより」欄(一部,日本経済新聞,文学界,あけぼの,東京新聞,馬酔木,朝日新聞,俳句研究,河北新報,しんぶん赤旗)に連載されたものを季節ごとに編集したものである。

 自宅を中心とした日常生活の中で見たこと,聞いたこと,感じたこと,様々なジャンルの本や作品を読んだこと,等々を2頁前後に表した随筆集である。目次を開いて,「これは」というものを選んで楽しみながら読んでいる。真剣に,確認しながら読む本も素晴らしい収穫があるが,本書は,肩の凝らない,それでいて何か得るものがある「おふくろの味」に似たような1冊である。

<春>(辛夷に会う,タラの芽無残,地蔵桜,菜めし,鳥の言葉,燕の巣,今年の山菜など20作品)。
<夏>(まぼろしの夏に疲労,青い山を目指して,懐かしい現実の手応え~古家に住まう,虫とたたかう,晩夏小景,夕顔,カモガヤとスイカズラ,ボボッとポーポー,ハンカチの木など36作品)。
<秋>(落葉焚き,秋の花見,糸瓜忌と秋桜忌,灯篭流し,野鳥の羽,秋の一日,庭のいろいろなど19作品)。
<冬・新年>(冬の原っぱ,正月の風邪,火鉢と湯たんぽ,二つの魯迅故居,唐土の鳥,天から送られた手紙,柊から椿へ,雪中桜など23作品)。

 なお,「歳時記」というだけあって,巻末に「季節索引」がついている。「枇杷晩翠」とは,冬枯れの時でも,なお青々としている枇杷の葉のことだと知った。窓の外の枇杷の木に目をやると,真冬なのに確かに葉が青々としていることが確認できた。なるほど! そして,「晩翠」から連想して,名曲「荒城の月」の作詞家で,詩人で英文学者の土井「晩翠」を思い出してしまった。時代を超えて,「晩翠」の詩はいつまでも輝いている。