ホーム > 教育研究所 > 気になる1冊 > 書評:小島宏の気になる1冊その867

教育研究所

書評:小島宏の気になる1冊その867

日本地名研究所編「地名と風土 第11号」(日本地名研究所 本体:1500円)


 地名といえば,我が家は,はじめ「奈良橋字山王」だった。それが「奈良橋四丁目」となり,市役所が近くに新築されて市の中央になったからと「中央四丁目」となった。どんどん意味のない記号になってきたような気がする。その意味では,東京都新宿区の地名を大切にする住居表示には敬意を表したい。

 また,ある市には,湧水だ出る窪地という意味で「井(井戸の井)の窪」と言われていたが,経緯は不明だがその後「芋窪」と改めたために,若い女性の間に「どこに住んでいるの?」と聞かれても答えにくいと...不評の地名もある。

 さて本誌は,一貫して地名は人間と大地を結ぶものとして大切にし,多くの人から支持されている情報誌である。今号もワクワクする内容が満載である。

 巻頭言「東京の地名と歴史探訪」谷川彰英,論文「地名を連ねた道行文の伝統」馬場あき子,「安孫子の地名」柴田弘武,「古代における天皇と風土」。
 <特集Ⅰ>「【座談会】平成の大合併を論ずる(平成の大合併とはなんであったか,地域ごとの複雑な様相,静岡県の場合,人口減少問題と学校教育)」司会谷川彰英×馬場政幸×菊地恒雄×小林汎×高橋治。
 特に<特集Ⅱ>は圧巻で,「柳田民俗学と地名研究」である。谷川彰英「柳田國男「地点名」論から地名研究を問う」,小田富英「柳田國雄年譜に見る地名への視座―柳田國男・山口貞夫・松永美吉を結ぶ線―」,高橋治「旅の経験と地名―初期柳田國男の地名研究―」,金田久璋「石神問答とシャクジ研究・地名をめぐる言説」,長沢利明「柳田國男と赤米地名研究」。
 <連載>伊藤純郎「地名研究の先達・胡桃沢勘内」,児島恭子「アイヌ語地名と神話・伝説」,小田富英「地名学習で柳田社会科の復権を」。
 そのほか「地名へのひとこと(梶川登,征矢野俊子,高木浩明,延島冬生)」,「地名談話室(大分山地地名研究会,岡山地名研究会,出水地名研究会,釧路地方の地名を考える会,佐倉地名研究会,水俣葦北地名研究会,海の熊野地名研究会,他)」,コラム「高校地名教育の現場から」山口均,「研究所所蔵資料から―ネズミの隠れ里探訪記」長谷川恩と,地名に関する情報が溢れている。