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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その870
門井慶喜著「銀河鉄道の父」 (講談社 本体:1600円)
本書の表題から「銀河鉄道」誕生の秘話か,宮沢賢治の父親のことか,どちらかだと思った。手に取って,表紙を見て,後者だとすぐに分かった。
宮沢賢治の父親は大きな質屋の2代目で,学校に行くのは必要ない(むしろ商売の邪魔になる)と小学校しか行かなかった。この父親が,その時の親(賢治の祖父)の方針を受け入れる一方で,何かを感じていたようだ。そして,賢治の中学校進学を許した。
賢治は,「石っこ賢さん」と言われていたようで,幼少の頃より一風変わっていたそうだ。そんな賢治が本格的に石の収集に凝りだすと,父親は「標本箱」を山のように買い込んで与えたそうだ。まさに親ばかそのものである。
このように,賢治の父親は「親ばか」であった。そして,他のきょうだいも中学校や専門学校に進学させた。素晴らしい「親ばかぶり」である。
内容を要約して紹介すると,ネタ晴らしになり読書欲を奪うことになるので,章立てだけ紹介する。1「父でありすぎる」,2「石っこ賢さん」,3「チッケさん」,4「店番」,5「文章論」,6「人造宝石」,7「あめゆじゅ」,8「春と修羅」,9「オキシフル」,10「銀河鉄道の父」。400頁余の大作だが,さすが門井さん,食事を忘れるくらいのめり込ませてくれ,すいすいと読ませてくれる。
賢治の父親の古き良き時代の本物の父親の生き方と,賢治がその父親と家族と周りの人とのかかわりの中で「銀河鉄道の夜」「風の又三郎」「やまなし」「注文の多い料理店」などたくさんの作品を創作した。ただそれだけでなく「雨ニモマケズ」の見るように,貧しくともひたむきに働き人生を実直に生きる農民に対する思いも表し,実際に行動している。改めて,宮沢賢治という人に惚れ込んでしまった。