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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その871
若竹千佐子著「おらおらでひとりでいぐも」(河出書房新社 本体:1200円)
表題「おらおらでひとりでいぐも」から,後期高齢者が「私は,私ひとりで,誰の手も借りず一人で旅立つから心配しないでいいよ」と解釈した。いやそれとも,「私は,私流に,私一人で自由気ままに残りの人生を生きるさ」ということかとも思った。
本書は,第54回文藝賞、第158回芥川賞受賞作で,東北生まれで,後期高齢者の現在,関東地方のある街で「ひとり」で暮らしつつ,様々な視点から人生を振り返り,ユーモラスに独り語りで表現している。
全体は,1,2,3,4,5の章に分けてはいるが,見出し(章の名前)はついていない。読者が読んでみて,その印象によって,ここはこういうことなのだと自由に理解できるようにあえて付けなかったのかもしれない。
65歳の友人は,本を読んだときに,感動したページに付箋を貼る習慣があるが,ちなみに,1に7枚,2に2枚,3に10枚,4に10枚,5に9枚の付箋が貼ってあった。私は,それが先入観にならないように読み進め,いろいろなことに感動した。作者は,昭和29年(私は小学校6年生だった)生まれでしかも主婦という,内容と文章表現に驚いてしまった(映画化を期待したい)。
空気のような存在の老妻(75歳,つい最近ピンピンコロリ106歳で母親が黄泉の国へ旅立ち落ち込んでいる)は,「東北なまり」の文章にはえらく難儀したようであるが,「ああ~面白かった。考えさせられた。自分のこれからの人生というより,今を楽しく生きたい」と,ぼそっとつぶやいていた。