ホーム > 教育研究所 > 気になる1冊 > 書評:小島宏の気になる1冊その873

教育研究所

書評:小島宏の気になる1冊その873

エヴァ・シュロス著 吉田須美訳「エヴァの震える朝」(朝日文庫 本体:980円)


 本書のサブタイトルは,「15歳の少女が生き抜いたアウシュヴィッツ」である。著者は,アムステルダムで,近所に「アンネの日記」を書いたアンネがいて,交流があった。1944年にアウシュヴィッツ・ビルケナウ強制収容所に収容されたが,厳しい恐怖の収容所生活をかろうじて生き延び,8か月後の1945年に奇跡的に解放された。

 そして,長い間「黙して語らず」だった著者エヴァが,自己のために,家族のために,人類に向けて,何よりも「人間の本性はやっぱり善だということを,いまでも信じている(「アンネの日記」より)」と書いていたアンネのために,未来に向けて苦しいことを書き留めたのである。

 いまだ日本を含め世界の中には,大小は別として思想信条・宗教・国籍民族などの違いで他を排斥・非難・中傷など非人間的なことが行われている。少し難しいが,孫たちに是非読ませたいと思っている。現在,多くの国際的課題(問題)が山積しているが,本書の著者エヴァの考えに触れることによって,そのいくつかは改善(解決)されるのではないかと思われる。

 第Ⅰ部「ウィーンからアムステルダムへ」第1章「オーストリア脱出」,第2章「アムステルダムの生活」,第3章「隠れ家」,第4章「逮捕の朝」,第5章「刑務所からヴェステルボルク収容所へ」,第Ⅱ部「アウシュヴィッツ・ビルケナウ」第6章「家畜用列車」,第7章「ビルケナウ女子収容所」,第8章「ミニにめぐり合って」,第9章「カナダでの遺品整理」,第10章「パパと再会」,第11章「ひとりぼっち」,第12章「再びパパと」,第13章「選別後―ママの回想」,第14章「病舎で」,第15章「解放の足音」,第Ⅲ部「帰還―ロシアを通って」〇「エヴァとママの辿った経路」,第16章「ソ連兵のスープ」,第17章「収容所の外へ」,第18章「アウシュヴィッツ偵察とオットー・フランク」,第19章「帰還―アウシュヴィッツの引き込み線へ」,第20章「カトヴィッツの映画館」,第21章「チェルノヴィッツでの歓待」,第22章「ママのひとり旅―ママの回想」,第23章「オデッサの大邸宅」,第24章「帰国―オランダへ」,第25章「それから私たちは」,そして「エピローグ」「母フリッツィ・フランクによる追記」と,目次だけ辿っても凄まじい著者「エヴァの人生とメッセージ」が伝わってくるようだ。一読を勧めたい1冊である。