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書評:小島宏の気になる1冊その879

藤原正彦著「常識は凡人のもの―管見妄語」 (新潮社 本体:1300円)


 管見妄語の管見は「視野の狭い味方・考え方」,「妄語」は嘘をつくこと・虚言という意味のことだろう。そういえば,仏教の五戒に「不殺生戒(故意に生き物を殺してはならない)」「不偸盗戒(故意に人のものを取ってはならない)」「不邪婬戒(不道徳な性行為をしてはならない)」「不妄語戒(嘘をついてはならない)」「不飲酒戒(酒を飲んではならない)」がある。

 本書は,これまでの著者の作品や,国内外の様々な現象に対するコメント(解釈,解説,価値づけ,主張など)から推測するに,恐らく「見識の狭い不実な言葉」と言いながら,自分の見識の高さをへりくだったもの(実は自慢している)であろう。そういうくだりを,本書の随所から見つけることができる。

 著者の見解を理解しつつ,「そうかな?」「こういう見方もあるでしょ!」「それはないよ」と少し斜に構えて読んでみると楽しめる。

 「はじめに(家族には酷評されるので,粒ぞろいの傑作が生まれる...)」,第1章「自分で決められない国(灰色の世界,痛ましい光景,企業ファーストなど10節)」,第2章「グローバリズムの欺瞞(常識は凡人のもの,半人前国家,盗まれて当然など10節)」,第3章「人類のあまりにもむなしい姿(グローバル教育の行き着く先,哀しい常識,沖縄の光と影など10節)」,第4章「確固たる自信のない人(読書ほど得なことはない,忖度官僚の猛反撃,何用あって碁将棋ソフト,寛容のもたらした悲惨など10節)」,第5章「祖国のためにありがとう(頑張ってくださいありがとう,狂乱の探偵ごっこ,会話の流儀など10節)」と,常識にとらわれがちな凡人の視野を広げてくれる。