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教育研究所
書評:小島宏の気になる1冊その899
宮下奈都著「羊と鋼の森」 (文春文庫 本体:650円)
本書のタイトルは「何を意味するのものなのか」と思いつつ読んでいるうちに,「な~~んだ!」と言うことで氷解した。初めの部分を読んでいくうちに,「羊は○○」「鋼は◎◎」「森は●●」と分かってくるので,ネタばらしをして読書欲を減退しないこととしたい。
本書は,2015ブランチブックアワード大賞,2016キノベス!第一位,2016本屋大賞の3冠達成ということで,「またか?」という思いが頭の片隅に合って読み進めた。それは何かと言えば,最近の話題になる作品は,意味不明の言葉の羅列,よじれた難解な文章,この世のものとは思えない筋書などなどと相場が決まっているからである。
ところが本書は,普通の日本語で,小学生高学年でもわかる表現で,それでいて状況や登場人物の心の綾が伝わってくるのだ。これが本当の小説家(プロ)の表現力,芸術性というものであろう。と,何もわからないくせに生意気にそう思ってしまった。
中学生の外村少年は,ひょんなことから調律師板鳥宗一郎と会う。自分も調律師になりたいと弟子入りを懇願する。「俺は弟子は取らない。この学校に行きなさい」とメモを渡される。両親を説得して,都会のその学校に入って...。
そして,調律師になった。初めからうまくいくはずはない。多くの先輩調律師の教え,多くの依頼人(特に双子の姉妹,由仁と和音)との触れ合い,多くのピアニストとの交流,等々を通して調律師として,人間として成長していくのである。...。
なお,本書は映画化され,6月8日に全国公開されるそうだ。余計なことであるが...。まずは,本書を読んで,自分を主人公に重ねて楽しんでもらいたい。