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書評:小島宏の気になる1冊その900
国立教育政策研究所 生徒指導・進路指導研究センター「全教職員が因果認識を共有し,主体的に取り組むことで,いじめの未然防止は可能。」(国立教育政策研究所 平成30年3月 非売品HPからダウンロード可能>)
いじめの未然防止は,「いじめられる児童生徒をなくす」「いじめる児童生徒をなくす」ことに他ならない。こんなに明確なことであるにもかかわらず,残念ながら実現できていない。「いじめられる児童生徒の苦しみと悲しみ」の裏にある「いじめる児童生徒の歪んだ心と行動」に効果的に迫ることができないからである。
この冊子は,国研が取り組んだプロジェクト研究「学校いじめ防止基本方針がいじめの未然防止に果たす効果の検証~中学校区が共通に取り組む事例を中心に~」の報告書(平成29年3月)を再編集したものである。
いじめの未然防止のネックは,教職員間の温度差(取り組みへの協力度・真剣度の違い),児童生徒への指導・対応(教職員の指導の一貫性のなさ・継続性の欠如),保護者・地域をはじめ大人社会のマイナスのモデル(大人社会にいじめまたはいじめに類似の現象があり悪しきモデルになっている)などがあるように思われる。本冊子は,教職員間温度差を取り除き,学校がいじめ問題に主体的に取り組めるようになるヒントを多く示している。そして,「研究者のための研究ではなく,児童生徒や教職員のためになる研究を行っていきたい」という国研の姿勢に,「それなら...」と読み進めた。
内容は,Ⅰ「調査の概要(目的,方法,流れなど)」,Ⅱ「中学校区が行った取組(実態を踏まえた学校基本方針の策定,1年目の取組,次年度の学校基本方針の改訂,2年目の取組と教職員の意識の変化,取り組み評価アンケートの尺度で見たいじめ未然防止の効果など)」,Ⅲ「いじめ未然防止の効果検証(いじめ追跡調査尺度の結果,検証結果のまとめなど)」,Ⅳ「研究のまとめ(科学的な裏付けがあって即効性のある他のやり方はないのか,どんなツールやプログラムを使ったのかなど)」,「参考資料(1いじめ質問用紙調査質問項目,2どのように策定・実施したら,学校いじめ防止基本方針が実効性あるものになるのか?―中学校区で取り組んだ2年間の軌跡―)」,「平成26~27年の研究組織」で構成されている。一行一行噛みしめながらじっくり読むと,たくさんの有益な情報・知見が得られるが,後期高齢者には文章が学問的で緻密なのが...。もう少し,簡潔・平易な報告書をお願いしたい。
特に,参考資料2「どのように策定・実施したら,学校いじめ防止基本方針が実効性あるものになるのか?―中学校区で取り組んだ2年間の軌跡―)」は,「2つの中学校区がチャレンジ!」「依頼したのはサイクルの取組!」「成果の鍵,合同研修会!」「認識の共有から,共通実践へ!」「小小連携・小中連携が,結実!」「2年目の研究からの,知見!」と,各学校が取り組む際のヒントがたくさん得られる。