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書評:小島宏の気になる1冊その908

養老孟司著「半分生きて,半分死んでいる」 (PHP新書 本体:860円)


 著者の「バカの壁」「自分の壁」「京都の壁」と既に読んで,しかも講演を何回か聴いて,もういいと思っていた。なのに,書名につられてまたも読んでしまった。大学に行った際,学生から「あれ,先生まだ生きていたんですか?」と言われたのが,書名になったのだそうだ。

 著者は,本当は,素直に社会現象や人の言動を見つめ理解している人なのに,ちょっと斜に構えて「悪ぶっている」とばかり思っていた(この点は読後も変わらない)が,解剖学者らしく鋭く分析して「ズバリ直言」していることが確認できて満足した。

 また,虫好きで,昆虫採集が子供の頃からの趣味で家じゅう標本だらけとか,ツマグロヒョウモンの写真や温暖化の影響で自生が北進していることへの気づきなどの話題に,好感(尊敬の念)を持った。また,何よりも,著者の読書量,歴史的な事柄や現代社会の諸事情に広く関心を持ち,造詣の深さや価値づけの創造性に頭が下がった。

 第1章「どん底に落ちたら,掘れ(煮詰まっている現代人,人工知能の時代を考える,虫と核弾頭など9節)」,第2章「社会能と非社会能の相克(持続可能社会,環境問題の誤解,一般化が不幸を生むなど9節)」,第3章「口だけで大臣をやっているから,口だけで首になる(言葉で世界は動かない,状況依存,デジタル社会のアナログ人間など8節)」,第4章「半分生きて,半分死んでいる(公が消える時代,老人が暮らしにくい世の中,コンピュータとは吹けば飛ぶようなものなど10節)」,第5章「平成を振り返る(日本は文化国家ではない,信じるほうが馬鹿など7節)」,総論「あとがきに代えて(自分の好きなことにどう向き合うか,人は何のために生きるのかなど5節)」。