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書評:小島宏の気になる1冊その913

新井紀子著「AI vs. 教科書が読めない子供たち」(東洋経済新報社 本体:1500円)


 日本数学会の「第1回大学数学基本調査(2011年4月)」によると,証明問題も選択肢問題も正答率が予想外に低かった。その原因と一つは,読解力不足と推測されていた。そこで,原因を明確にするために中高生の基礎的読解力を調査してみる(注:本著p184~)と,問題文の国語的な理解ができないということが分かったということである。これが,タイトルの「教科書が読めない子供たち」となったようである。

 読書をしない,スマホやパソコンで省略語や短文で意思交換をする,鉛筆やボールペンで書くことをしないなどの積み重ねが,わかりやすい「教科書」のような基礎的なことも読み取れなくない子供をつくってしまったのではのではないかというのである。そして,教え込みの知識・技能の習得に偏った教育では,AIに代替えされても「AIに代替えできない仕事」をすることのできる能力を育てることにはならないと著者は警告する。新高等学校学習指導要領が「探究重視」を唱っていることを理解したい。

 PISA読解力の高得点(注:参加国中2009年8位,2012年4位,2015年8位)に気を良くしている段階ではない。もっと,子供たち全体を視野において,すべての教科等において「読む(基礎的読解力)」「書く(基礎的作文力)」「話す(基礎的説明力・話す能力)」「聞く(基礎的聴取力)」を育てることを丁寧に積み重ねることが求められるということかもしれない。

 AI(人工知能)の進化に適切に対応した学校教育の在り方を考えることを,真剣に考えなければならないと思う。

 「はじめに」,第1章「MARCHに合格―AIはライバル(AIとシンギュラリティ,AI進化の歴史,AIが仕事を奪うなど7節)」,第2章「桜散る―シンギュラリティはSF(読解力と常識の壁―詰め込み教育の失敗,Siriは賢者か?,機械翻訳など6節)」,第3章「教科書が読めない―全国読解力調査(数学ができないのか問題文を理解していないのか?,3人に1人が簡単な文章が読めないなど5節)」,第4章「最悪のシナリオ(企業が消えていく,そしてAI世界恐慌がやってくるなど3節)」,「おわりに」と,やがてやってくるAI時代に,人間とは,学校教育はどうあるべきかを考えるきっかけと手掛かりを与えてくれる。