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書評:小島宏の気になる1冊その916

金菱 清 編 「私の夢まで、会いに来てくれた―3・11亡き人とのそれから」(朝日新聞出版 本体:1500円)


 あの震災から7年が過ぎた。まだ多くの人々が悲しみや困難を乗り越えられず心理的・身体的・経済的など厳しい状況にある。

 本書は,東北学院大学震災の記録プロジェクト金菱清ゼミナール2017年度の学生たちが,テーマ「被災者遺族が見る亡き人の夢」について,遺族は「どのような夢を見ているのか」「何を思い過しているか」などについて,調査を進め,それを「震災に向き合う遺族の方々が何を思い,どのように今を生きているのかを伝えたい」という思いでまとめたものである。

 内容は,語り手(被災者)から聞き手(学生)が聞き取ったことを,忠実にまとめるとともに聞き手の素直な感想を付記したものである。被災者の生の声に耳を傾け,被災者の思いを受け止めるとともに,そう簡単なことではないが当たり前のごく普通の日常生活を取り戻すことができるように可能な範囲と方法で支援したいと思った。

 金菱ゼミ 関明日香「はじめに」,第1章「夢を抱き,今を生きる(やっと触れた懐かしい母のほほ,あのとき「行くな」と言えていたら,死んでいく弟・自分を起こす弟など11のレポート)」,第2章「小さな魂たち(私たちを忘れないで,夢も現実も妹がいつもそばに,トンネルを抜けた光の先になど6つのレポート)」,第3章「夢と現実の境界(「かあちゃん」と呼ぶ声が愛おしい,泥だらけの姿で「ありがとな」,お父さんが長い長い階段を上がって行くなど10のレポート)」,第4章「夢を思考する(孤立"夢"援,なぜ震災後亡き人と夢で邂逅するのか)」,角田奈美子「学生たちの原稿に見た未来への光」,金菱清「あとがき」と,悲しみの中で家族との絆や愛情を生きがいとしている温かい人間性に触れることができる。