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書評:小島宏の気になる1冊その959

ジュリアン・バジーニ著,向井和美訳「100の思考実験」(紀伊國屋書店 本体:1800円)


 真偽の程はわからないがピサの斜塔で,ガリレオ・ガリレイが行った「ピサの斜塔から大小の金属の塊を落とした時どちらが早く落ちるか?」という実験を行ったことは有名な話である。ところが,この実験を行わなくても,思考実験をすれば,大小の金属の塊が「同時に落ちる」ことは説明できるということである。(思考実験=thought experimentの詳細は省略)

 ところで,昭和63年12月告示の小学校学習指導要領算数科では,「具体的操作(現在の数学的活動?)」や「思考実験(現在はこの用語は見当たらない)」などの活動ができるようにし,論理的思考力や直感力の育成を求めている。当時,「思考実験とはなにか?」「どのように思考実験をさせたら子供の論理的思考力を伸ばせるか?」とあれこれ考えたことを思い出す。そして,消えてしまったことを少しばかり惜しいことだと思っている。

 そんなことを思い出しながら本書を手にした。帯には,「これは『読む本』ではありません。『考える本』です」とあり,「思考実験(思考を助けるための道具,実生活で試せないことも試そうとしないことでも考えることができる)」を実行しながら「こと(問題)の本質」を捉えることを勧めている。

 本書は,「思考実験の対象になる事柄,これに対する思考実験をする課題(問題),そして著者の思考実験による結論を示し読者の批判的読みを誘っている」という構成担っている。これらをヒントに,自らの疑問や問題について「思考実験」をしてみたらいかがでしょうか?

 「思考実験」として,「1:公平な不平等―不平等が許される場合とは?」「7:照射なしの場合―結果が良ければ何をしてもいいのか?」「14:氷の話―経験だけで判断してよいのだろうか?」「45:目に見えない庭師―神は存在するのだろうか?」「54:ありふれた英雄―道徳的行為と英雄的行為はどう違う?」「90:正体がわからないもの―物のほんとうの姿とは?」「97:道徳的な運―結果は運によって決まるのか?」など100の「思考実験」が紹介されている。クリティカル・シンキングをして,自分らしい生き方を目指した自分流の「思考実験」をどうぞ。