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書評:小島宏の気になる1冊その961
津田左右吉著「古事記及び日本書紀の研究―建国の事情と万世一系の思想」(毎日ワンズ 本体:1100円)
いつの頃からか「古事記」に素人的関心を持つようになり,平易に解説してあるもの,薄いもの,廉価なものを買い求め,気が向けば少しずつ読み進めるが,大半は積読を担っている。お恥ずかしい限りである。本書を手に入れたのもその類である。
著者は,世の中が歴史の間違いを改めるよう求めているが,歴史が間違っている場合には2つの場合があると言っている。その一つは,「古事記」や「日本書紀」のように,歴史的事実を記述したものと考えられていた古書が実はそうではないという場合である。もう1つは,歴史家の書いた歴史が,史料の批判を行わず,またはそれを誤り,そのため真偽の弁別を間違ったり,史料の性質を理解しなかったり,何らかの偏見によって事実を枉げたり,ほしいままに解釈したりして,その結果,虚偽の歴史が書かれている場合である。(建国の事情と万世一系の思想PP10~11より)
著者は,前者の立場で,「古事記」及び「日本書紀」の研究を続けてきた。それ(「古事記及び日本書紀の研究」)が,昭和15年に,皇室の尊厳を冒涜するということで発禁になり,かつ起訴された。「古事記」と「日本書紀」は歴史的事実としては曖昧であり,物語,神話に過ぎないという著者の主張は,文献を分析批判し,合理的解釈を与えるというもので出版法に触れるものではなく,全体を読めば国を思い,皇室を敬愛する情けに満ちているものであったということである。(元東京大学総長南原繁「津田左右吉博士のこと」より)
内容は,「建国の事情と万世一系の思想(1.上代における国家統一の情勢,2.万世一系の皇室という観念の生じたまま発達した歴史的事情)」,「古事記及び日本書紀の研究(総論,第1章新羅に関する物語,第2章クマソ征伐の物語,第3章東国及びエミシに関する物語,第4章皇子分封の物語,第5章崇神天皇,垂仁天皇二朝の物語,第6章神武天皇東遷の物語,結論)」という構成になっている。著者は,「古事記」と「日本書紀」を根拠をあげて科学的に分析批判をしたものであり,合理的に解釈したものであることが,素人の自分にもかなり理解できた。