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書評:小島宏の気になる1冊その983

高橋栄一ほか編集「東京人2018年7月号・通巻398号」(都市出版株式会社 本体:930円)


 今号は、「没後70年・今こそ読みたい太宰治」で、2007年増刊号「三鷹に生きた太宰治」以来で、ファンにはたまらない特集である。

 まずは、林聖子×堀江敏幸「対談・太宰さんは、ひょうきんな人でした」で、生前の太宰治と会ったことがあり、「一見憂鬱そうに見えるのは、実は太宰の演出」など、様々なエピソードが、当時の手紙や写真などを基に語られている。

 また、旧制青森中学と弘前高校時代の教科書やノートへの落書きも紙上公開されていて、太宰治の多感な青春時代を垣間見ることができる。

 さらに「前略太宰治様」として、平素目にできない短編小説、「懶惰の歌留多」(らんだのかるた)、「皮膚と心」、「待つ」、「恥」、「親友交歓」、「清貧譚」、「駆込み訴え」、「一つの約束」も紹介されている。

 さらに、「二十一世紀の太宰治・拡散される言葉」では、矢野利裕が「人生の出発は、つねにあいまい。破局の次にも、春が来る。」など名言を紹介している。

 川端康成、志賀直哉、三島由紀夫、坂口安吾など同世代の作家が、太宰治の作品をどう読んだかも紹介されているし、師と先輩作家・文学仲間・女性・同郷の友人・同輩と交友関係、太宰治の生涯年表まで紹介されている。

 短編小説「メリイクリスマス」掲載、戦後に起こった3つのブームとその時代(昭和23年当時、昭和30年頃、昭和40年頃)の考察、映画化された太宰作品、井の頭公園やJR三鷹駅南口など太宰にまつわる東京八景をレポートしている、等々盛沢山である。

 本号はさらに欲張って、対談で太宰治の生前を語った林聖子さんの半生も紹介している。