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書評:小島宏の気になる1冊その999

井上ひさし著「井上ひさしの日本語相談」(新潮文庫 本体:476円)


 そんなことと思われることを承知で申し上げれば,小説家「井上ひさし」らしい「言葉へのこだわり」から生まれた楽しい1冊である。

 おこがましいことであるが,実は後期高齢者の自分も,「Aさんの考えとBさんの考えは一緒だ(同じだ)」「成果を数字(数値)で示せ」「全然OK(駄目)です」「雨が降っているけれども蒸し暑いですね(その割にさっぱりしていますね)」「これがご注文の天丼になります(お待ちどう様,ご注文の天丼です)」等々,文句言う之助になってしまうので,同感しながらかつ著者の識見の高さに感動しながら読み進めた。

 内容はQ&A形式で,「二ホン,ニッポン,どっち?」「『より』と『から』正しいのはどちら?」「『すみません』だらけの世の中に?」「〇〇チョウと××マチの違いは?」「気にする略語ばやりは時の流れ」「『誤用』が社会的に承認されるとき」「下手な役者はなぜ『大根』なのか」「『いい』と『よい』はどちらでもいいのか」「固い,硬い,堅いはどう違うのか?」「興業の最終日を千秋楽というわけ」など60の言葉相談が紹介されている。目次で,関心のあるものを拾い読みするだけでも,知識が広がるはずである。

 巻末の座談会:井上ひさし×大岡信×大野晋×丸谷才一「劇場の日本語」も読みごたえがある。