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書評:小島宏の気になる1冊その21
村松秀著「論文捏造(ねつぞう)」(中公新書ラクレ中央公論新社本体:860円)
本書は,アメリカのベル研究所の若い研究者が起こした論文捏造事件の真相解明を求めて,粘り強く取材活動を続け,NHKのBSドキュメンタリー「史上空前の論文捏造」として2004年初回放送をしたものを,取材の過程を含めまとめたものである。冷静に,地道な取材活動を続け,客観的な資料やインタビューの積み重ねで「論文捏造」について,説得力のある事実をあぶりだしている。
最近も,細胞の作製,新薬の開発などに関する論文捏造やデータ改竄などが報じられている。
本書を含めて,捏造に絡んで,関係者の行動や説明に共通していることは,「発見した,作成したというもののサンプル(実物)が示されていない」「作成の過程の記録の詳しいものが保存されていない」「他の研究者が追試をしたが再現できなかった」「データに不信(実験に基づいたデータ?改竄?使い回し?など)がある」「データやその処理についての疑義に対して,研究者は,単純なミスであると説明している」などが共通しているようである。
学校教育でも,新しい学習理論や指導方法が,主張されることがある。教育の効果や成果は,短時間に,明確に確認できない面があるだけに,「こうだろうという主張」「根拠のあいまいな成果の公表」「因果関係・相関関係を吟味しない結果の考察」などが起きないよう警鐘を与えられているように感じた。
ドキュメンタリーとしても面白いし,「論文捏造事件」を反面教師として科学的な追究の仕方を学ぶことができる高著である。