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書評:小島宏の気になる1冊その387
梶田隆章著「ニュートリノで探る宇宙と素粒子」(平凡社本体:1800円)
著者は,銀河系以外の宇宙から飛来した「超新星ニュートリノ」は質量ゼロとされていたが,カミオカンデ実験によって質量があるということを発見し,19998年に国際会議で発表している。この功績によって,2015年12月7日アーサー・B・マクドナルド博士と共にノーベル物理学賞を受賞された。(実は,著者は,既に,1999年仁科記念賞,2010年戸塚洋二賞,2012年日本学士院賞,2015年文化勲章を受章している)
著者は,既にノーベル物理学賞を受賞している益川敏英先生の弟子(?)に当たるわけである。2013年教育展望セミナーの講演で,益川先生に午後の質問を伝えてご指導いただいた。「ニュートリノは地球や人体を通り抜けると言うが,なぜ壊さないのか?」と言うもので,「電磁波なので,通り抜けるが,その物体には何も影響しないし,破壊しない」と言う答えであった。
著者も本書の中で,このことに言及しているが,電磁波の中にX線も含まれるという。そのことが我が家では「X線は一定量以上照射したり,長期間照射したりすると癌になるという害がある,またX線写真では,影が映るのだから影響なく完全に通り抜けるといえないのでは?」と話題になった。ということで,専門家が「易しくの書いたもの」はやはり難しいが,それでも,それなりに知的好奇心を満たしてくれ,相当科学的な能力が高まったかのような錯覚にしばし酔わせてくれる。理数に弱い私でさえ,結構楽しく一気に読み終えた。あなたなら,もっと楽しく読むことができそうですよ。
「原子核のβ崩壊のミステリーは,バウリやフェルミの理論で説明できることが分かりました。しかし,この時点ではあくまで,「説明できる」だけです。理論が受け入れらるには,ある現象を説明できるだけでは十分ではありません。この場合,仮定したニュートリノが存在することが示されて初めて,物理学の学問として認められるのです」と言う記述に「目から鱗」の感がした。これは,教師として,理科の「仮説,実験,観察,事実の確認,理論など」,算数・数学の「算数・数学的活動,見通し,解決,家庭と結果の吟味,説明,証明など」に大きな示唆を与えられたような気がする。
「はじめに」,第1章「ミクロの世界に分け入る」,第2章「素粒子の世界に分け入る」,第3章「宇宙線とニュートリノ」,第4章「太陽でつくられるニュートリノ」,第5章「超新星爆発とニュートリノ」,第6章「ニュートリノ質量の発見」,第7章「宇宙線誕生の謎に迫る」,第8章「太陽ニュートリノ問題の解決」,第9章「地球ニュートリノの観測」,第10章「ニュートリノと素粒子と宇宙」,第11章「これからのニュートリノ研究」,「あとがき」。