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書評:小島宏の気になる1冊その408
高濱虚子著「俳句はかく解しかく味ふ」岩波文庫
本書は,下記の俳人の代表的な作品について,著者の簡潔明解な解釈を「私は殆ど次代なんかに頓着なしに數十句の解釋を試みて,諸君の俳句に對する解釋力といふものを養ふといふ事にしょうと思ふ」という趣旨で編んだものである。
俳句史を彩る山崎宗鑑,松尾芭蕉,寶井其角,服部嵐雪,向井去来,宮城凡兆,宮城羽紅,江右尚白,濱田珍碩,内藤丈草,根津史邦,河井曾良,合瓜,伊左岡雁宕,谷口蕪村,里柳召波,高井几蕾,大島蓼太,炭太祇,北村橘仙,江森月居,加藤曉薹,川田田福,乙?,竹奴,牛眼,栗田樗堂,夏目成美,小林一茶,正岡子規,内藤鳴雪,河東碧梧桐,赤木格堂,松瀬青々,佐藤紅緑,島田悟空,折井愚哉,數藤五城,原抱琴,渡邊水邑,田中寒樓,松村鬼史,三湖,墨水,靜子の46人の190句が取り上げられている。
いくつか,その一部を紹介しよう。「飲みあけて花いけにせん二升樽・蕪村」には「芭蕉は大酒豪ではなかったらうが,まんざら下戸でも無かったやうである。その消息文のうちに,人からもらった禮?などもあるやうである。此の句も恐らく芭蕉の實況で,二升樽の酒を厨に藏してゐた。飲みあけて,といふのは一晩や二晩で飲み空けようといふのでは無く,幾日かかかって,飲み空けたら,その樽が花生けにせうといのである。…」が,「我門に来そうにしたり配り餅・一茶」には「自分の家へ来さうとした配り餅が,自分に家へは来ず隣家へ行ってしまった,といふのである。こんなことはよくあることであるが,世の中に虐遇されて,失望に慣れてゐる一茶には,その些細なことも深く頭にしみ込んだのであろう。…」が,「元日や草の戸こしの麥畑・召波」には「この句の作者召波といふ人は蕪村の門人で,漢學の素養があった人で,卓然とした見識もあったのであらう。武神に導かれ,且つ重んぜられて居った人で,格調はもっともよく蕪村に似てゐる。蕪村の句が金ぴかの裃も著,長い朱鞘をぽつこんだやうな趣とすると,召波の句は麻裃を著て,寸の短い大小を腰にしたやうな趣があるといってよかろう。…」と,等々,様々な視点から論評している。
自分流に解釈した後で,作者の解説を読んで比べてみると,また,異なったことが感じられるようになるに違いないと思う。