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書評:小島宏の気になる1冊その411

池谷裕二著「自分では気づかない,ココロの盲点・完全版」(ブルーバックス 本体:1000円)

ついそうだと判断して(考え),間違えてしまうことをよく経験する。こういう判断ミスを犯す思考の癖を「認知バイアス」と言うそうである。本書の副題は「本当の自分を知る練習問題80」でクイズ80問を考え,著者池谷裕二の解説に学んで,自分自身(読者)の「認知バイアス」を自覚させ,あわよくば判断ミスを少なくしようとするものである。

どこにでもありそうな事柄を通して,妙に,なるほどと思わせてくれるのは,著者の深い研究と,脳を生活場面の何にでも結び付けてしまう柔軟な人間性によるものであろう。真剣に読んでも,流し読みをしても,目次を見て関心のある部分を拾い読みしても,ともかく楽しめる内容である。

大は小を兼ねる(選択肢過多効果Choice Overload Effect)では,デパートで,①6種類のジャムを販売するブースト,②24種類のジャムを販売するブースの売り上げを比べ,客が足を止めた割合は①<記号②であったが,実際に商品を買った割合は,①:②=7:1であったという。つまり,大は小を兼ねないというのである。その理由は本書を読んでのお楽しみである。

でも,小さなカツオ3匹より大きなカツオを1匹の方が,長い竹竿を持っていれば短い所に使う時は切ればよいなど文字通り「大」は「小」を兼ねる場合が,現実にはあると,素人考えをしてしまう。実際,小さな服は着られないが,大きな服はだぶだぶでも着ることができ,そのうち体が成長してちょうどよくなるなどは,母親の生活の知恵としてよく行われている。大きめの靴を買うのもこれと同様である。

いやいや自分の考えが浅いのだ。もっと深く考えると「大は小を兼ねる」といかない場合もあると,その上を教えてくれているのだ。

浅学菲才の私の印象に残った項目だけでも紹介しよう。

1:大は小を兼ねる,2:思慮深い行動,3:麗しきあの方,16:名は体を表す,32:副作用,33:損得勘定,39:生きるべきか死ぬべきか,45:戦争と平和,50:自分で自分を褒めたい,54:安心安全ブランド,67:悲しみよこんにちは,71:自分探しの旅,76:サグラダ・ファミリア,77:有害物質,79:つむじ曲り,80:お気に召すまま,など80問。

 巻末に,「推薦図書」11冊,「錯視用語集50(いわゆるダマし絵のようなもの)」「認知バイアス用語集225(本文中の用語解説や心理的な解説も兼ねている)」がついていて,参考になる。