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2 道徳教育に関わるカリキュラム・マネジメント

吉冨芳正(よしとみよしまさ) 明星大学教育学部教授

(1)道徳教育に関わるカリキュラム・マネジメントの重要性

 道徳教育については,学校の教育活動全体を通じて行うという特質から,カリキュラム・マネジメントの考え方を生かしてその充実を図る必要がある。子どもたちがよりよく生きるための基盤となる道徳性を養うことを目標とする道徳教育は,その目ざすところが学校の教育目標に織り込まれ,特別の教科道徳を要として各教科等での取り組みを横断的に,また各学年での取り組みを縦断的に貫いて展開される。さらに,道徳教育は,子どもたちの学校内での学習や生活にとどまらず,家庭や地域での生活,大人や社会との関わりなども視野に置くことが求められる。そうして,学校内外の資源を効果的に活用することに配慮しながら,道徳教育のよりよい在り方を常に求め続け,動態的に改善を図っていくことが重要である。

 カリキュラム・マネジメントについては,例えば,道徳教育の全体計画に加えて,さらに「カリキュラム・マネジメント」という名前の計画を作成し実施しなければならないわけではない。これまで行うべきことを行ってきた学校については,特別に新たなことを付加するものではない。新学習指導要領では,道徳教育を進めるうえで必要な事項が「第1章総則」や「第3章特別の教科道徳」にわたって示されている。それらを踏まえ,カリキュラム・マネジメントの考え方を生かして,各学校において行うべきことを学校の教育活動と経営活動の中に適切に位置付け,さまざまな要素をつなげる意識を持ちながら道徳教育の質の向上を図っていくことが求められているのである。

 各学校が進めてきた道徳教育の全体像や具体的な取り組みを振り返り,新学習指導要領の下でそれらの意義を問い直し,継続すべきこと,見直すべきことを一体的に整理していくことがカリキュラム・マネジメントの出発点となる。

(2)全体の構造化・体系化と学びが成り立つ工夫

 新学習指導要領では,子どもたちがよりよい人生や社会を創造する資質・能力の育成が目ざされ,各教科等の目標や内容を貫いて「知識・技能」「思考力・判断力・表現力等」「学びに向かう力・人間性等」の三つの柱で整理されている。道徳教育で養う道徳性や内容は,それらの資質・能力と密接に関わっている。中でも,道徳性と関わりが深いと考えられる「学びに向かう力・人間性等」は,他の二つの柱の資質・能力を高める基盤となったり,それらをはたらかせる方向付けに関わったりする。

 こうしたことを踏まえると,学校の教育目標や道徳教育の重点目標等の設定に当たっては,「知・徳・体」という捉え方や,三つの柱で整理された資質・能力が関わり合って子どもたちがよりよい人生や社会を創造していくという視点をもって,それらをバランスよく,かつ統合的に育成するように構想していくことが求められる。

 このような考え方に立ち,道徳教育の全体計画では,重点目標,道徳科を要として各教科等で育成を目ざす資質・能力や,そのために取り扱う内容項目などを明確にし,道徳教育全体の構造化,体系化を図ることが大切である。そのような全体の見通しの下で,道徳科の年間指導計画や学習指導案の作成,教科書教材をはじめ多様な教材の工夫などを適切に行うことができる。内容項目についても,形式的に一つずつ取り上げて一単位時間をあてるのではなく,目標との関係において必要に応じ複数の内容項目を関連付けて扱ったり,重点の置き方によって授業時数の長短を調整したりするといった工夫が考えられる。そうした工夫により,子どもたちの主体的・対話的で深い学びが成り立つようにすることが重要である。

 学校の実態等を踏まえ,道徳教育に関わる目標や内容等全体についての構造化,体系化や子どもたちの学習を成立させる工夫が十分に行われているかどうかは,学校評価のポイントの一つにもなるであろう。


(3)推進体制の整備と学校文化の創造

 道徳教育に関するカリキュラム・マネジメントにおいて重要なことは,教育活動の充実のため経営活動に関する諸要素を整えていくことである。学習指導要領では,上述のように,カリキュラム・マネジメントについて「校長の方針の下に,校務分掌に基づき教職員が適切に役割を分担しつつ,相互に連携」することが求められている。さらに,「道徳教育の推進を主に担当する教師(以下「道徳教育推進教師」という。)を中心に,全教師が協力して道徳教育を展開すること。」(「第1章総則 第6 道徳教育に関する配慮事項1」より抜粋)や,「校長や教頭などの参加,他の教師との協力的な指導などについて工夫し,道徳教育推進教師を中心とした指導体制を充実すること。」(「第3章特別の教科道徳 第3 指導計画の作成と内容の取扱い2(1)」より抜粋)などが示されている。校長は,道徳教育を学校経営の柱の一つに据え,学年や教科等の経営,生徒指導,校内研修などをつないで充実を図るよう組織体制や運営の工夫を行うことが求められる。

 その際,道徳科の授業に自信がある教師ばかりではない中で,授業の計画・実施と校内研究を一体的に捉えて展開することが大切である。学校としてポイントを明確にし,授業の計画や展開,教科書をはじめ教材・教具の工夫等に着実に取り組んでいくことである。優れた実践の情報を学校全体で共有し,次の授業に生かし合うようにしたい。

 「社会に開かれた教育課程」の実現を図るという理念,そして道徳教育は,その考え方を学校と家庭や地域,そして社会全体が共有し,連携・協働することでよりよく実現される。実際,子どもたちや教育をめぐる課題のすべてを学校だけで解決することは困難である。道徳教育を柱の一つにしながら,子どもたちと教職員でよりよい未来を創造しようとする前向きな学校の文化を創っていくことは,学校からさまざまな情報を積極的に提供しはたらきかけていくこととあいまって,家庭や地域の教育の在り方に好ましい影響を及ぼしていくと考える。

【参考文献】 田村知子・村川雅弘・吉冨芳正・西岡加名恵編著『カリキュラムマネジメント・ハンドブック』ぎょうせい,2016年

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